景気悪化に伴い農畜産物の消費や価格が一層低迷し、農業・農村の先行きへの不安が広がっている。政府は、農家所得の向上と農山漁村の活性化を掲げ、戸別所得補償制度など農政転換を打ち出した。ただ、農業・農村には、豊かな農的資源と循環型社会に貢献できる力があり、農家や地域の結束で自ら展望を開くことは可能だ。地域に根ざした活動で明日をつかもうと努力する経営などを紹介する。
みんなでつかむ 経営力〈高知県宿毛市 おおぐし農園〉
25ヘクタールの果樹園で「土佐文旦(ぶんたん)」などのかんきつ類を生産し、全量直販する高知県宿毛市樺の有限会社おおぐし農園(大串謙二代表=52歳)。新規就農者など16人を常時雇用し、データを基に農作業経験のない人でも栽培管理できる大規模経営に取り組む。大串代表は「スタッフが仕事にやりがいや働きがいを持ち、自己成長につながる農園にしたい」と話す。地域住民との交流を深める「文旦デコリン祭」を企画するなど、ブンタン産地の盛り上げにも積極的だ。
<写真:「20年来の顧客もいて身内の感覚」と大串代表(左)。右は生美社長>
安定経営つかむ 連携力〈富山県高岡市 北陸営農組合〉
農商工連携で郷土食を守ろうと、富山県高岡市今泉の農事組合法人「北陸営農組合」(組合員13人)は、北陸地方の郷土料理「かぶら寿(ず)し」を製造する食品会社と契約し、原料の大カブを生産している。契約栽培で単価が市場より高く、経営の安定につながる。食品会社には新鮮な地場産の原料を入手でき、運賃コストを抑えられる点がメリットだ。組合では大カブを水稲や大麦、大豆とのブロックローテーションに組み込み、栽培体系を確立している。
<写真:洗浄、選別した大カブをみる安田組合長。「食文化を守り、農地を後世に引き継ぐことで地域に貢献したい」と強調する>
消費者との交流でつかむ 信頼力〈千葉県印西市 船橋農産物供給センター〉
千葉県印西市の農事組合法人「船橋農産物供給センター」(飯島幸三郎代表、59歳)は、都市部の消費者と結びつき、30年以上も産直に取り組んでいる。140人の生産者が、生協との提携や直売所での販売に携わり、2008年度は前年比14%増の5億5千万円を売り上げた。生産費補償を行う基金をもうけるなど、安心して生産できる体制を整えている。消費者との交流では、本当の農業を知ってもらうため、田んぼの再生から手がけ、田植え、収穫までの体験コース、野菜の種播きから収穫までを農薬を使わないで体験するコースなどを展開。参加者は「田んぼづくりから始めるのは大変だけど、やりがいがあった」と話している。
<写真:野菜を出荷する生産者。左から平川さん、飯島代表、渡辺さん、会田さん>
地産地消や加工でつかむ 販売力〈岩手県紫波町 しわ牛研究会〉
岩手県紫波町の「しわ牛研究会」(9戸)は、地元特産の「ヒメノモチ」玄米や稲発酵粗飼料(WCS)を給餌して肥育した黒毛和牛を「岩手しわもちもち牛」ブランドとして市場出荷している。年間出荷頭数は現在、約140頭。さしが入って柔らかい肉質と、軽い食感で甘味がある脂身が特長だ。市場関係者へのPRとともに、地元消費者への定着を図ろうと、町内の食品関連業者との連携、産業祭りなど各種イベントへの出店、小中学校の食育活動への協力などに精力的に取り組む。町内の農産物直売所や精肉店、レストランなどで、もちもち牛を扱う店が増えている。会長の畠山正宏さん(50)=肥育120頭=は「地元のみなさんに一層愛されるブランドに育てたい」と話している。
<写真:「飼料米が注目されている。先発の強みを生かして、しっかりブランドを打ち出していきたい」という畠山さんと妻の悦子さん>