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防風林「ICTやAIの農業利用、経営判断まで委ねてしまわないように【2016年9月2週号】」

 ▼「トントントン」――日本を代表する大手重電メーカーの研究所。装置から伸びた棒がスイカの表面を軽くたたき続ける。音の波形から、糖度や果肉の詰まりなどを選別する試作装置を視察したことがある。10年以上も前のことだ。
 ▼今でいう非破壊検査法の走りだった。プロ農家が果実の良しあしを、たたいた音で見極めるのを応用したのだった。耳で選定した果実の音の波形と、実際に糖度などを計測した値を照らし合わせ、最適なたたき方を再現することで果実を壊さずに選(よ)り分けられるのだ。
 ▼その数年後には、切ったり針を刺したりしなくてすむ、赤外線照射方式が開発・普及したため、打音を感知するアナログ装置はお蔵入りの運命だと思っていた。予冷・選果施設関連企業の人との会話で、トントン方式の糖度装置は以後、実用化されて産地で長らく使われていたと知る。
 ▼2016年度補正予算では、熟練農家のノウハウをICTや人工知能(AI)などの活用によって、農業の未経験者でも短期間に高度な栽培や飼育の知識を習得できるシステムの構築を目指すという。担い手農家確保が困難な中で、熟練技術の引き継ぎは重要な課題。
 ▼カーナビやAT車に慣れた運転者が、道路地図を読めずマニュアル車さえ運転できなくなるように、農業技術や経営の判断をすべて委ねてしまわないかと懸念する。果実をたたいた際に良質果実が発する音の仕組みや理由を知ることで、熟練者に近づく肥培管理のヒントにつながればいいのだ。それが、人材育成に向けた先進技術の使命ではないか。