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防風林「農書から続く"農の術" AI農業に人は育つか?【2016年10月1週号】」

 ▼わが国で最初の農業指導書は、福岡藩士・宮崎安貞が1697年に著した『農業全書』(全10巻)とされる。「わが村里に住することすでに40年、自ら心力をつくして、手足を労し農事を営み」とあり、老農からの見聞や精農家としての経験と知識を凝集、執筆に専念したに違いない。
 ▼「農術に詳しくなければ五穀少なく人民の生を養うことなし」と農耕の重要さを説いた。農業全書の巻末には「農人たる者、特に稲と麦の栽培に術をつくし、力をもちうべし。農民が天道を尊ぶ道にして、命を保ち福を受ける術なり」だとしている。
 ▼米を食べてつきるころ、麦が収穫を迎え人々の食糧になる。加えてアワやキビ・ソバ・豆類など穀物の作付けで稲麦の不足を補えるとも。江戸期の封建時代、士農工商と階層社会の中にあり年貢や土地に縛られる農民に、「農術」向上で生命維持と幸福を導けることを農業全書で諭した。
 ▼安貞の精神を受け継いだのは、『農具便利論』『農稼肥培論』『広益国産考』などを著した大蔵永常(豊後国生まれ)。特に農具便利論は、鍬(くわ)や鋤(すき)、唐箕(とうみ)、灌漑(かんがい)用具などを普及すべきとし、構造を細部まで解説・紹介、農業の省力化や効率化を促した。
 ▼今や「手足を労して」耕作に臨む農家は少なく、手足の補助たる農具は高性能農業機械に変化した。将来は、頭脳の代替というべき「AI(人工知能)」導入という。安貞のいう「農業の術」が育つとはどうも考えられないのだ。