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防風林「農村を視線の高さから見れば豊かな政策も【2016年10月4週号】」

 ▼多くの人が交差する場所にカメラのレンズを向け、居合わせた人々を定点観測するNHKのドキュメント番組がある。東北のドライブインに設置されるうどん自販機前、繁華街の公共休憩所、コインランドリーなど。
 ▼遠くから見ると人も風景。カメラが目線の高さから近づき声をかけると人間模様や心象風景が見えてくる。ショッピングモールの食事コーナー。椅子にもたれる高齢の男性は知的障害を持った娘さんを看病する毎日、月数回の訪問介護の日だけ、ここでくつろいで息をつくのだという。
 ▼昼過ぎに自然と集まる5~6人の高齢者仲間。夕方は騒がしい部活帰りの高校生。保育園に子供を迎えに行っての帰り道、夕食を共に取るワーキングマザー。多様な生活や悩みを抱える人々が過ごして去っていく。
 ▼取材を終え手帳を閉じた後、例えば最寄り駅まで送っていただく軽トラの中。取材を「する側」「受ける側」の関係が解かれた瞬間に、「実はですね......」から始まる会話になることがある。品種選択や販売法、家族の話題など。たかが数分の共有でも、一歩近づいた分だけ血流を感じる記事にしたいと思いは強くなる。
 ▼農家はそれぞれ異なる風土や分野・内容・環境の中で生活し農を営み、個々が集まり農村(むら)が構成されている。先進事例のみを視察して「農業は変われる」との判断は拙速。同じ高さの目線で凝視すれば、農産物輸出や先端技術導入では解決できない別次元の施策が必要なことに気付くはずだ。