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防風林「『災害文化』の構築は伝統芸能の掘り起こしから【2016年11月4週号】」

 ▼書店や図書館の書棚には自然災害に関する書籍が増えてきたようだ。東日本大震災や熊本地震などの発生が防災への関心を高めたのが理由だろう。
 ▼『災害文化の継承と創造』(橋本裕之・林勲男編)では、かつて発生した大災害記録や記憶を後世に伝える大切さに加え、伝承される祭りや神事などの地域文化と災害が密接に関連している場合が多いと指摘する。
 ▼2004年のスマトラ沖地震でインドネシア・シムル島では大津波で被災したが一人の死者も出なかった。島には「話に耳を傾けなさい」で始まる「スモン(津波)」という叙事詩が伝わる。「大きな地震が起きたなら 海水が沖に引いたなら 丘の高い所に逃げなさい」(一部省略)。詩は全島民の心に刻み込まれていた。
 ▼これら知識を「在来知」という。国内でも平安時代の貞観大津波の被災地で伝承が残る地区の被害は軽微だった。重要なのは伝統芸能の掘り起こしと維持だ。歴史ある神社への奉納舞は災害死亡者への鎮魂が由来となっている例が多いのだ。
 ▼過去に例のない自然災害には、在来知が通用しない場合もあるはず。多様な災害を想定し、地域特有の気候や地形から脆弱(ぜいじゃく)な要因に備える対策が肝要だ。在来知に新しい知識を積み上げて、将来にわたり伝承され易いように、新たな伝統芸能を創作し次世代に伝えたいもの。「災害文化」の出発点は、地域に根ざすNOSAIが担うべきなのかもしれない。