▼山陰地方の海岸沿いの地域では、浜辺で自生するハマダイコン(浜大根)を地元特産野菜としてブランド化に力を入れているという。このハマダイコンが東京の中心部、しかも皇居外苑の堀端、桜田門から半蔵門にかけての街路樹下周辺に自生しているという。本紙の「ズバリ直言」筆者で、江戸・東京野菜に詳しい大竹道茂さんから教えていただいた。
▼徳川家康が江戸を拠点にしたころの約400年前、大手門や日比谷門から現在の銀座や日本橋方面は、見渡す限りの海原だった。埋め立てによって武家屋敷や町屋を形成。潮の香りのする浜辺が自生地だったよう。
▼交通の往来が激しい現在のこの場所でなぜ種を継承できたのか? 桜田濠の両岸は石垣ではなく土塁。種子が定着し風に運ばれ根付いたのでは...と大竹さんは考える。外苑地区は環境省で植物の採取を禁止しているため禁断の野菜といえるかも。
▼ハマダイコンは広範囲な地域の海岸で自生し、4~6月に薄紫色の花を付け、果実を調理し食すほか根茎はそばなどの辛味に用いられる。一般的には、昔の栽培種のダイコンが野生化したとされてきたものの、近年の遺伝子比較から、海外原産の野生種がはるか大昔に何らかの伝播経路を経て、渡来し根付いたとの説も。
▼神奈川県鎌倉市には疫病を地大根で多くの住民が救われたとの伝承が残る。自生するハマダイコンだったのでは...と、特産化に向け始動した。物語性に満ちた野菜種は住民活性化の原動力につながる。