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防風林「活水やその後の利用は長期展望をもって【2016年12月2週号】」

 ▼山梨県の甲府盆地を流れる釜無川はかつて、山間からの御勅使(みだい)川との合流点で激流が発生、たびたび氾濫し農地を押し流していた。領民救済のため堤防造りを指示したのが、戦国武将・武田信玄とされる。
 ▼強固な護岸堤防ではなく、御勅使川を分水したほか、合流点に巨石を置いて水勢を弱め下流に導く。杭(くい)を組んだ「聖牛」を何カ所にも設置して流れを包み込んで水勢を抑える方法も。現在でも、当時の技法を受け継いでいるのが有名な「信玄堤」だ。
 ▼四方が山の甲斐国は軽石土壌のやせた農地が多く、洪水による農作物の減収は国力にも影響するため深刻。加藤清正の熊本や豊臣秀吉の大坂、徳川家康の江戸は、川の流れを変え海を埋め城と都市を築く「治水」により、国土整備と繁栄をねらった。
 ▼江戸は川と堀が何本も走り、河岸や堀端は荷揚げ場として米・野菜・魚介類で満たされた。昭和初頭の築地移転後は「都民の台所」と親しまれ、高級料理屋からも「新鮮な江戸前や近郷物が手に入る」と重宝がられた。施設は老朽化し、干拓地・豊洲移転計画の決定は2001年のこと。
 ▼だが、予定地の土壌から有害物質が検出され移転は棚上げ。盛土で対応するはずが、計画にない空洞の底水から有害物質の再検出で暗礁にのる。治水で国土を築いた先人に対し、近代の干拓造成や利用には、諫早湾水門の対応を含め課題が多い。土木技術の向上と長期展望なき開発の裏で、豪雨の度に発生する水害さえ防げないのが現実だ。