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防風林「絣(かすり)の野良着は農村女性の暮らしの文化【2017年1月3週号】」

 ▼住宅に囲まれた近所の小さな畑の畝に、マルチを敷く親子農家の姿があった。近づくにつれ、真新しい作業服と黒長靴を身に着けた青年が、実は高校生ぐらいの女子だと気づいた。
 ▼父親がそろえたのか灰色のいでたち。それを素直に着る彼女の決意も伝わって、「がんばれ」と心の中で応援し、その場を後にした。しばし歩いて彼女の硬い表情が気になりだした。汚れは当たり前の農作業でも柄物衣服やジーンズ、赤長靴なら楽しい気分になれたのではないか?と。
 ▼昨年末、鳥取県倉吉市で木綿絣(かすり)の古い野良着を収集し研究する染織家・福井貞子さんを訪ねた。かつて農村女性は藍染木綿絣を自ら織り、破れに布をあてて針目を増やし愛着を込めて着こなした。短い上着とモンペの組み合わせの歴史は意外と新しく昭和期に入ってからの流行という。
 ▼長い着物を端折(はしょ)って作業した時代、モンペ姿の嫁に、「女が股割れ着物を」との姑(しゅうとめ)の苦言を避けるため、屋外の物陰で着替え野良にでた女性もいた。戦時中は出征で、戦後は出稼ぎで男手のない田畑を守った女性。モンペは働き頭としての象徴だった。
 ▼織物教室で技術を継承する福井さんは「織の技法は伝統を、柄は自分らしさを」と教えている。野良着は女性が築いてきた生活文化。固定し留(とど)まるのではなく、農作業のほか直売所運営や農産加工など、女性が活躍する範囲の広がりに応じ柔軟に変化していい。それが農村を明るくし作業改善への意欲につながれば、なおいい。