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防風林「人の英知でモノはでき、努力で文化になる【2017年1月4週号】」

 ▼あらゆる「商品」が世に出る背景には、多くの開発者の苦悶(くもん)が隠れている。基礎研究の成果から実用化への途上で難問が待ち受けて、解決策が見えない状況を「死の谷にいる」と開発者は表現するそうだ。
 ▼谷から這(は)い上がり実用化を叶(かな)えても商品化への条件はより厳しく、深く暗い底なしの「ダーウィンの海」がある。新規性のある技術も、消費者志向や発売時期、価格を見誤ると商品化の契機は永遠に来ない。モノである製品をそんな視点で見ると、人の信念の結晶なのだと再認識する。
 ▼米産地品種銘柄に指定される品種の中で最も多いのは「コシヒカリ」(「農林22号」×「農林1号」)。しかし、世に送り出された経緯には育種関係者の苦闘があったという。『コシヒカリ物語-日本一うまい米の誕生』(酒井義昭著)では、稲姿は良いものの、いもち病に極めて弱く倒伏しやすいことから「芸者稲」と酷評されて、選抜から漏れる運命だった。
 ▼戦後の食糧増産時代が望む特性は、収量性や栽培の容易さで食味性は二の次。ダーウィンの海の底に沈んでいたコシヒカリを陽光の下に引き上げたのは、「良食味性の時代が到来する」との関係者の信念だ。過施肥が節間長を伸ばし倒伏させるため、最適施肥法の確立に心血を注いだ。
 ▼育成に関係した新潟と福井の地方を示す「越の国」に「光輝く稲を」と願いを込め命名。さらに続き「農林100号」で品種登録された。人の英知でモノが誕生し人の努力により文化が派生するのだ。