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防風林「『裏日本』と呼ばれても気候・風土を受容しよう【2017年2月1週号】」

 ▼今年の冬は、日本海側や西日本の大雪で、果樹や園芸施設などに大きな被害をもたらしている。地球を循環する大気は、複雑地形で高低差のある日本列島を通過すると、地域によって様々な空模様を見せる。
 ▼列島の背骨を貫く山脈を境に、日本海側と太平洋側は正反対。川端康成の『雪国』にある「トンネルを抜けると」をそのままに、雪雲の下は白の世界。車窓の景色の変化に歓声を上げる観光客と対照的に、雪国へ帰る人は誰もが無口になっている。
 ▼雪国の人々は2~3メートルもの積雪に備え、高床の家屋や道路側に設けた庇(ひさし)〈雁木=がんぎ〉で、人が往来できる小路を確保する工夫をしてきた。そんな古い街並みも徐々に減少して、商店街はシャッターが降りて空き家や更地、駐車場などに様変わりしている。
 ▼日本海側の政令指定都市でも、旧市街地は世帯数の減少で小学校の統廃合が進む。併合された小学校歌に「裏日本の中心地」との一節がある。早稲田大学校歌「都の西北」と同じ相馬御風の作詞。厳しい自然でも負けずに雄々しくあれとの意を込めた。が、卒業生の旧友は「この地方が裏日本と意識した始まり。表日本へのあこがれがつのった」と話した。
 ▼山脈の横腹に穴を穿(うが)ち、新幹線と高速道路の開通で表日本は近くなったが裏日本の冬に変化はない。今冬、日本海を覆う鉛色の雲の切れ間から夕日が透け、赤と灰色の濃淡を見た。表日本では見ることができない風景。表も裏も意味はない。雪深い故郷の気候や風土をようやく受容できる齢(よわい)になったよう。