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防風林「遺産を残す難しさは、今も地域で継続すること【2017年3月4週号】」

 ▽石油精製所や工場の夜景見学ツアーが盛況という。一方、廃坑や閉鎖工場、廃鉄路に魅力を感じる人も多く、近代産業の盛衰、両極の風景には共通点があるのかも。
 ▽長い年月放置され赤さびた鉄骨や機械の残骸に耳を傾けると、繁栄期の喧噪(けんそう)や工員らの声が蘇るようだ。『産業遺産を歩こう』(平井東幸ほか編著)は、産業活動の足跡である歴史的建造物や機械、跡地などを産業遺産として見直すべきという。
 ▽1872年に設立された官営富岡製糸場は世界文化遺産に登録以降、参観者が絶えないという。国内養蚕業の振興を背景に、絹糸の生産力と輸出競争力向上に先導的な役割を担った。石炭採掘場の廃坑や製鉄業の廃高炉なども、明治維新後の国家繁栄を築いた遺構だ。
 ▽産業遺産は「幕末から明治期以降、産業化や近代化に関係した遺跡や遺構など」が定義。農業分野では山居倉庫(山形)や安積疎水(福島)なども該当しようか。農業技術史からみれば納屋に眠る千歯や唐箕(とうみ)など古い農具類もあげられよう。
 ▽農水省は将来に受け継がれるべき「日本農業遺産」として、宮城県大崎地域や埼玉県武蔵野地域など8点を認定し、うち3点を「世界農業遺産」への登録に向け国連世界食糧機関に申請する。産業も農業も遺産を後世に伝え残すのは至難の業だ。特に農業遺産は近代化との狭間で、営農や文化が今に継承されていることが問われ、地元の協調なしでは永続は難しい。