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防風林「ぶどうばあちゃんのブドウ酒から【2017年9月1週号】」

 ▼「ぶどうばあちゃん」。幼い頃、父方の祖母をそう呼んでいた。父の実家はブドウやナシなどの果樹農家。数十キロも離れたわが家を訪れるたび、風呂敷にブドウを山ほど詰め、「ふうふう」息弾ませ玄関に入ってきた。
 ▼父の好物だと差し出すのが、一升瓶入りの自家製ブドウ酒(半世紀前のため容赦)だった。狂言「附子」ではないが、父は息子に薬と称し毎晩味わっていた。ろ過前の濃厚な紫色の液体は、まぎれもなくブドウジュースだ。太郎冠者はある日、親の目を盗み茶碗一杯を口に含み飲み干した。甘酸っぱく芳香な液体は胃に到達すると体が火照り気分よくなった。
 ▼祖母の死去以降、ブドウ酒は到来せず記憶だけが残った。ブドウ農家を取材した後にこの昔話をすると、「ジュースやワインじゃないの?」と言われたが、グラスの向こうが透ける液体ではなく濃くて酔えるやつ。
 ▼日EU・EPA(経済連携協定)発効後、ワインは即時関税撤廃となりEU産が低価格で店舗に並ぶかもしれない。全国のブドウ産地では近年、高品質なワイン造りが進むが、消費者に国産品の優位性を知ってもらう対応が迫られてくるに違いない。
 ▼政府は、農業の競争力を強化し輸出産業への成長を目指している。輸出対応もいい。農家が醸造を含めた規制を超えて自由に農産加工できる環境になれば、国内市場は活性化するのではないか?ぶどうばあちゃんの素朴なブドウ酒は、妙薬ではなく日本の家庭料理に合いそうな気がしてならない。