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防風林「冬枯れの空から人の色の存在に気づく【2018年1月3週号】」

 ▼冬枯れの夕暮れ、薄曇りの濃淡まだらな雲が空を覆いだしてきたとき、中学時代の美術教師の言葉を思い出した。「君の色彩感覚は幼稚園児並み」。絵の具をべたべたとまるで腕の悪いペンキ屋。絵の才は百%ないと数十年。
 ▼今なら青一色の空は描かない。筆に水をいっぱい含ませ画用紙の下地も生かしながら濃淡をつけまだらな空を描くだろう。あの頃、配色や筆の使い方を考えもしなかった。画家でもある片岡鶴太郎さんが「風景の色に原色ってないですよね。だから心にすっと受け入れられる」と、テレビで話したのをなるほどと納得した。
 ▼葉が全部落ちた取り残しの真っ赤な柿も、陽(ひ)のあたり具合で橙(だいだい)色がかって見えたりする。これが自然の育てた色。果実の着色や稲の葉色で収穫時期を判断するから、農家のみなさんは四季折々の色彩に敏感なのだ。
 ▼今年の新年号表紙には、長野県中川村の北島遊さんが描いた油彩画を掲載した。陽光浴びる駒ヶ根連山を背景に手前の深い森。葉のすべてが主張するように描かれ、麓には土を耕す農家も風景に溶け込んでいる。「私もいずれはこの土地の自然のひとつに」と話す北島さんの言葉が印象に残る。
 ▼都会を彩る構造物は真っ黒、真っ白、真っ赤が氾濫して往来する人々も無表情だ。人も自然の一部とすればそれぞれの色があり単色で表せる人はいない。それを認識できずに人を判断していないか。冬枯れの空からはそんな単純なことを気付かされた。