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防風林「卓袱台を囲む暮らし 家族の絆にもつながる【2018年2月4週号】」

 ▼「東京物語」「麦秋」などを遺〈のこ〉した世界的にも評価の高い映画監督・小津安二郎氏の作品には戦後の庶民生活が描写されている。家族が炬燵〈こたつ〉や卓袱台〈ちゃぶだい〉を囲む夕食シーンは、山田洋二監督の「男はつらいよ」シリーズなどにも多い。
 ▼日本人にとって卓袱台を囲む団らんが戦後庶民の象徴だったはず。空気を読めない寅次郎の振る舞いで、和やかな雰囲気が一転。騒動に発展しそうな雲行きに、視聴者ははらはらし何故〈なぜ〉かおじちゃん一家の一員になった気分になってしまう。
 ▼30年ほど前の映画「家族ゲーム」(森田芳光監督)では、意思疎通が希薄な家族関係を横一列に並ぶ食卓で表現し話題になった。いまや、食事中でもスマートフォンを片手に電子空間での空虚な言葉のやり取りに熱中している老若男女も多く、横一列の食卓は現代社会の歪〈ゆが〉んだ実像と重なって見えるのは考え過ぎだろうか。
 ▼中・外食産業が好調だ。家族間の生活サイクルの違いや婚姻率の低下、核家族の増加などが要因として指摘されているが、「個(孤)食化」の傾向は着実に来ているようだ。回転寿司やファミレスの盛況さも、家族の団らんを目的にした週末の一大イベントだとすれば、むげに否定もできない。
 ▼数世代が寝食を共にし、農業を営む割合の高い農村部では、卓袱台を囲むのが日常の風景だろう。だが近い将来、小津映画を観て「どこの国の風景?」と首を傾げる世代が出現するとも限らない。