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防風林「取り残しのキュウリから、野菜の源流を知る【2018年3月1週号】」

 ▼昨夏、敷地の片隅に腐葉土を混ぜてキュウリ苗を植えた。そんな"にわか菜園"でも数本が実り、塩を振って冷蔵庫で一昼夜。翌日は新鮮な浅漬けで一杯。気長な生産工程はこれが最終目的だった。
 ▼以後、興味も薄れ数日が過ぎたある日、取り残した果実がズッキーニを一回り太くしたくらいに肥大し黄色く変色していた。そのまま口に入れたが、シャキシャキ感はなく適期収穫の大切さを実感したのだった。
 ▼特集企画の参考に『日本の野菜』(青葉高著)をひも解いたら、キュウリの祖先は6世紀頃に渡来していて、江戸期の『農業全書』(宮崎安貞著)にも紹介され比較的古い野菜とわかる。食する時期は黄色く熟してからで、今の緑色で細長い実は未熟果にあたるらしい。
 ▼キュウリを広辞苑で引くと「胡瓜」と漢字表記されている。が、どうも「こうり」としか読めない。他の書籍では、昔は「黄瓜(きうり)」(木瓜の説も)と表記していたらしい。早口言葉で「きうり」を繰り返すと「きゅうり」と発音するのが証し。
 ▼なぜ「胡」の文字を使うのか。「胡桃」や「胡椒」「胡麻」もそう。『広辞苑』で胡を引くと、中国西域を指す字とし、シルクロードを経て渡来したものに対して名を付したとする説もある。あの黄色く肥大した取り残しのキュウリが、古人(いにしえびと)にとっては収穫適期だったのだと思いをはせる。無粋な筆者は、自ら育てた細い緑色の浅漬けのほうがいい。冷えたビールによく合うからだ。