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防風林「野生鳥獣肉(ジビエ)の流通は課題が多い【2018年3月2週号】」

 ▼山と里の境界に石積みの「猪垣(ししがき)」跡が見られる地域が多いという。人間がイノシシやシカなどの野生鳥獣との戦いに挑んできた史跡であり文化遺産といえるようだ。
 ▼人の生活領域と野生動物の活動領域を明確に仕切る猪垣は、現在の電柵などにつながり、被害が深刻な地域ではこれら防護柵を設けても作物が食い荒らされるケースは多いのだ。侵入を防ぐ対策ではもはや効果は薄く、個体数の減少を選択せねばならない地域は多い。
 ▼近年の野生鳥獣による農作物被害は200億円前後とされ、農林水産省の2018年度予算は約100億円を計上、市町村の被害防止計画に基づく生息数減少対策や野生鳥獣肉(ジビエ)利用を支援する。だが、ジビエ肉を街の精肉店で見かけたことは今までにない。
 ▼狩猟文化が根付く西欧では家庭料理などに容易に利用できるらしいが、国内では獣類殺生や食肉を忌み嫌う風習が長く続いたせいか、田舎料理店などで猪鍋を見る程度だ。農水省の実態調査では食肉処理して利用した量は約1200トン程度。イノシシとシカの年間捕獲数約50万頭のうち、施設処理は約8万頭と2割弱。
 ▼シカは利用割合が高いものの、イノシシは生息域が広すぎ捕獲獣の搬入や肉流通に課題が多く埋設処理も多いと聞く。猪垣には"人・獣共存"の思いが伝わり、可能なら共存の道を模索すべきと思う。だが野生鳥獣に、住民の"生殺与奪の権"を握られている地域の存在も現実なのだ。