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防風林「種子は共有財産だが 安易な海外流出防止には国を挙げるべき【2018年3月4週号】」

 ▼昭和初期に稲塚権次郎氏が育成した耐倒伏性短稈(かん)小麦「農林10号」ほど数奇な運命をたどった品種も少ないだろう。戦後、米国のボーローグ氏がこの農林10号を親系に作出した小麦品種が、発展途上国の多くの人々を救った「緑の革命」に寄与したと評価、ノーベル平和賞を受賞したのだった。
 ▼遺伝情報の世界的な共用を目的とした機関はなく知的所有権も明確でなかった時代。農林10号の血を分けた品種は、後に500以上におよんだものの、日本が敗戦国だったことで稲塚の功績は陰に隠れたとされる。
 ▼冬季平昌五輪の日本女子カーリングチームが休憩時に食べたイチゴが、日本から流出した品種だとし問題になった。韓国は日本産農水産品目を厳しく輸入規制したままで各国にイチゴを輸出、その被害金額は約200億円にものぼるという。
 ▼多くの自治体が銘柄イチゴの作出に力を入れ品種登録したものの、国際的には効力がない事を後になって知った人も多い。輸出力強化を政策の柱に据えながら、海外での知的所有権取得を推奨してこなかったのは、脇のあまさというものだ。
 ▼「民間の進出を妨げる」として、稲や麦などの優良種普及に貢献した主要農作物種子法が廃止となる。種子は適正に活用すべき公共財。海外企業に手渡し権利を独占されたら、草葉の陰で「またか」と稲塚は臍(ほぞ)をかむだろう。民間育成水稲種子が高値流通する現状からも、種子法廃止で生産費の高騰は目に見えている。