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防風林「平和願う兜(かぶと)の尾はキリリと締めて【2018年4月1週号】」

 ▼新年度に入り心機一転、気を引き締めて...との心境にいる人も多いだろう。ことわざにも「勝って兜(かぶと)の緒を締めよ」があって油断大敵、細心の注意で事に当たれとの意味だ。
 ▼1905年、帝政ロシア・バルチック艦隊との日本海海戦に勝利した旧日本海軍。東郷平八郎連合艦隊司令長官が、このことわざを艦隊解散式の訓示の中で引用したことは有名。『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)の終盤には、その場面がある。
 ▼同辞の前置きは「一勝に満足し治平に安ずる者より直ちにそれを奪う。古人(いにしえびと)曰く......」。古人は徳川家康らしい。再び司馬氏著の『関ケ原』からひもとく。1600年、石田三成率いる西軍との天下分け目の決戦、東軍は小早川秀秋らの翻意により薄氷を踏む勝利を収める。激戦が終わり雌雄が決した戦場で、家康は兜をかぶり緒をキリッと結ぶ。
 ▼息絶え絶えで腰を落とす兵を前に、軍団総帥が戦闘態勢に入ったからたまらない。甲冑を再び着け言葉を待つ。家康はやおら立ち上がり「勝って兜」の一声、天下を制し初の訓示。だが司馬氏は、家康に戒めの思慮はなく兜は雨をしのぐだけの単なる酔狂と手厳しい。
 ▼徳川幕府は250年の治平に安じ、黒船来航で幕を閉じる。日露戦争後の日本は、おごり高ぶり日中戦争から世界大戦の泥沼へ。東郷が訓示した兜の緒は、再び戦争を起こさない決意ではなかったのか。日本は敗戦以降、長い平和が続く、兜の緒が緩まないよう朝鮮半島や国際情勢を冷静に見極めたい。