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防風林「少子化の波に逆え鯉幟【2018年5月2週号】」

 ▼連休中の晴れた日、武蔵野の山中で車を走らせていたら木々の間から「♪屋根より高い鯉幟〈こいのぼり〉」、童謡そのままに風でなびく光景が見えてきた。
 ▼二十四節季の立夏を迎えたその日、古くは「端午」と呼ばれ、今では「子供の日」の方が通りがいい。『民俗の事典』(岩崎美術社)によると、端午は「五月のはじめの午の日のことで......五が重なる重五、すなわち五月五日をさす」とある。
 ▼昔、"嫁が里帰りできる日""女性が威張れる日"とした地方も多く、田植え後に女性の労をいたわる日だったらしい。それがいつの間にか、不祥を払う菖蒲湯に浴する習俗となり、武勇を尊ぶ「尚武」に変遷し鎧や具足を飾る男児の節句に。「竜門を登れば鯉が竜に化する」との諺〈ことわざ〉から鯉幟を揚げる風習が定着したという。
 ▼深酷な少子・高齢化が進行中のわが国にあって、そんな視点で周辺地域を見渡すと鯉幟の姿が数年前と比較して激減したしたようにも。地元の自治区内では小学生の集団登校班の編成が組めずに、隣接する数区と合同で登校する状況という。
 ▼この4月、就学前の男児を持つ若夫婦が引っ越してきた。新居で初めて迎える子供の日。なのだが庭やベランダに鯉は泳がせてはいなかった。わが家は十数年前まで狭いベランダに鯉幟を揚げ、ポールへの絡みをほぐすのに苦心した。再び泳ぐ鯉に喜んだ純真な息子はいずこ、思い出の中だ。例え小さな鯉幟でも、高齢住民の心も少しは和んだろうにと思う。伝統行事はそんな力がある。