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防風林「江戸の衛生は屎尿(しにょう)処理の循環が育んだ【2018年6月3週号】」

 ▼先週に続き"うん"のつく話題。江戸期に人口100万人を超えた世界屈指の大都市・江戸。庶民の食料供給を担ったのは近郷や武蔵、相模国などの百姓たち。
 ▼徳川家康の江戸入府以降、利根川の流れを東に移し海を埋め立て武家屋敷や町屋を形成。荒川支流の隅田川などを引いて、随所に堀割を設け、肥大した人口を支えるための食料や物資運搬に供する河岸を設けた。考古学者で旅行家のシュリーマンが中国や日本に立ち寄った『旅行記』には、清潔で衛生的な都市に驚愕(きょうがく)した記述がある。
 ▼江戸庶民の大量な排せつ物は水運、肥船で近くの村々へ運んで貯留し作物の肥料とする循環システムを構築していたのだ。西欧でも下水道を完備した国は少なく、シュリーマンのみならず訪れた外国人は日本の文明や意識の高さに感嘆したことは容易に想像できよう。
 ▼屎尿(しにょう)・下水道研究会編の『トイレ』によると、江戸庶民は長屋住まいが多く、共同便所からの排せつ物は高額で売買され家主の収入源だった。同書籍によると、明治初期に米10キロの価格が59銭で、大人1年分のふん尿が35銭、子供は半分で売れたとしており大家族ならば相当額の実入りになったはず。
 ▼江戸は、都市と農村が有機物連携で循環社会を形成した。働き方が議論されるなか農業も若手確保対策が叫ばれる。労働現場で「臭いものにふた」では敬遠されて当然だろう。将来、地域・世代を超えた人の連携が色濃くなるとすればなおのことだ。