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防風林「「風土記」は世の鏡、平成版は何を映すのか?【2018年6月4週号】」

 ▼武蔵国(埼玉県)の秩父地方でわが国初の銅山が発見されたことから、元号を「和銅」(708年)と改められ、後に「和同開珎(わどうかいちん)」と銭文の和製通貨が初めて流通した。
 ▼今、「一世一元制」の世だが、過去には幾度か改元した例は多い。和銅銭の文字に「銅」ではなく、「同」をあてた所以(ゆえん)は中国古典に「天地和同」などの言葉も見られ、安寧の願いを込めたとされる。銅山の麓に建つ聖(ひじり)神社には今も和銅が御神体として祭られている。
 ▼『古事記』『日本書紀』は日本最古の書とされ、『風土記(ふどき)』もまた同じ和銅期に編さんされた。前2書は神話の時代から推古・持統天皇期までの歴史書に対して、風土記は中央政権が地方官吏に伝承や気候・風土、地名とその由来を提出させることで、地方掌握目的の地誌的役割を帯びていた。
 ▼『風土記 日本人の感覚を読む』(橋本雅之著)では「地方の村里視線からみた歴史観がある」とし、稲作文化や日本人のむら意識、精神性などの源泉がうかがえるという。現存する風土記は、常陸・出雲・播磨・肥前・豊後の5地方のみ。
 ▼文書の多くが散逸した伊勢風土記には、土地に鎮座する風の神が天照大御神(あまてらすおおみかみ)に国を譲る伝説が残る。橋本氏は、台風常襲地の民が「災害の恐怖と風の恩恵を、神への畏敬の念を込め語り継いだ」とする。和銅期の「現在」と何百年も遡(さかのぼ)った「過去」に、今の日本人に通じる深層意識が隠されている。風土記はその時代の鏡、「平成版風土記」は現世をいかように映すのか、評価は千年後だ。