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防風林「地野菜復活は、地域ぐるみの活動で【2018年8月1週号】」

 ▼今、全国で地野菜を地域資源として復活しようとする活動が増えている。京野菜や加賀野菜が何百年も永続したのは、伝統の食文化を存在させてきたことからだという。
 ▼文献や古老の記憶でしか伝承されていない野菜品種を種子探しから始めるのは容易なことではない。だが、種が途絶えた理由には需要の変化や栽培の手間などの理由があったはずだ。「伝統」を新たな商品価値として売るためだけの地野菜復活劇ではもとの木阿弥、再び衰退しかねないのでは。
 ▼江戸東京野菜の「練馬大根」は漬物向けの品種だったが先太りで収穫作業に手間取り、「亀戸大根」は陽光や気温上昇に弱く細かな管理が求められた。亀戸大根を作り続けた江東区の農家は、葦簀(よしず)を太陽の向きに合わせ角度調整するため、朝、家を出ると日暮れまで畑にいた。葉が横に広がる葉物は流通時に葉が傷み、改良されて小松菜になった。
 ▼ある集落では娘が嫁ぐ際、地野菜の種を柳行李に忍ばす風習があった。当の集落では栽培が途切れた地野菜が、嫁ぎ先集落で大切に守られ今に残るという話も聞いた。地野菜の復活劇は、先人らの思いや苦労も同時に復活するということだ。
 ▼京都や石川では伝統野菜を使った料理が営々と存続する。歴史的な価値もさることながら、復活させた地野菜の調理法も再現してほしい。農家のみならず料理人や加工職人などをも巻き込んだ地域ぐるみの取り組みが、将来に残していける原動力になる。