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防風林「生命の大切さ伝える物語を伝承したい【2018年8月4週号】」

 ▼月遅れのお盆は同時に終戦記念日。73回目の戦没者追悼式に参列されていた方々もかなりのご高齢に。戦場や空襲の悲惨さを後世に伝える語り部は減少の一途、生命の大切さを願う灯火は消してはならないと改めて思う。
 ▼敗戦後、中国大陸に進駐していた旧日本軍の多くが武装解除したなかで、蒙古地域の守備隊は武装解除せずに居留民間邦人を護衛しつつ大陸を南下。守備隊の司令官、根本博中将は当時の中華民国・蒋介石総統に邦人擁護の約束を取り付け、約3万人とされる民間人や将兵の本土帰還の任を遂行した。
 ▼その後、大陸は毛沢東率いる共産党が勢力を増大、蒋介石の国民党は台湾に追われ窮地にあった。日本はGHQによる占領下で、海外への渡航は厳禁だ。だが1949年、根本は「釣りに行く」とだけ告げて家を出る。かつて、日本人救済の約束を履行した蒋介石の恩に報いるため台湾へ赴いたのだ。
 ▼共産党軍は大陸と台湾の中ほどに位置する金門島の攻略に向け、数万の兵力で進撃を開始する。迎え撃った国民党軍は激戦のすえ勝利するのだが、守備戦を指揮した将の中に根本の姿があったという。
 ▼生命を救う決断に対し信義で報いた物語。現在の日台友好の礎と知る人は少ない。帰国した根本の手には1本の釣り竿が握られていた。戦中の外交官・杉原千畝の功績や『火垂るの墓』(野坂昭如著)のほかに、語り継ぐべき隠れた物語は多いに違いない。