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防風林「映画から見る世界と日本の農業の違い【2018年10月4週号】」

 ▼多くの女性出稼ぎ労働者が汽車を乗り継ぎ大規模農園に送り込まれ、過酷な重労働の中で男女の愛憎や貧しさゆえの罪悪を描いた映画「にがい米」(ジュゼッペ・デ・サンティス監督、1949年)。日本と同じ第2次大戦の敗戦国イタリア作品。
 ▼監督者の掛け声で水門を開くと勢いよく水が田に流れ込み、何十人もの女性が一斉に苗を乱雑に植え始める。赤襷(たすき)と絣(かすり)の着物を膝までからげた早乙女が印象的なわが国の風景とは違い、何とも豪快だ。
 ▼舞台は戦後の混乱期。街での暮らしを支えるために農村を目指した。「膝まで水に浸(つ)かり陽(ひ)を背にかがむ作業は、女性ならではの仕事。素早く仕事を片付けたその手で裁縫や育児をします」と駅に並ぶ行列を報道する場面がある。女性が農作業を担っていたのは、あの時代のわが国とも共通点がある。
 ▼田植え労働の報酬が米なのは二期作のためか。イタリアは欧州最大の米生産国で輸出品目。農機普及前は都市に労働を依存していたのは興味深い。わが国は手間替えなど集落機能で維持した点が違う。
 ▼昔の邦画は、「米」(今井正監督)など農村の悲哀を描いた作品が多いものの、近年の「奇跡のリンゴ」(中村義洋監督)や農業高校が舞台の「銀の匙(さじ)」(吉田恵輔監督)は農業の魅力を表現する。映画は時代を映す幻灯機、お国柄の違いや新旧の比較も楽しい。将来、無人化農業の進展で人間が存在しない農業映画ができるかも。