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防風林「近代農法が生み出す効率性と引き換えるものとは?【2018年12月2週号】」

 ▼ある古農具収蔵館に立ち寄ると、関東の山村で長年使われた「踏み鋤〈すき〉」と、白黒の作業写真を見た。鋤や柄は木製で鋤長は1.5メートルほど。
 ▼谷側方向に鋤を地面に刺し込み、鋤尻に片足を掛けて両足を前後に広く押し出す。傾斜地では山の下から上へと耕す「後ずさり耕法」が普及した。昭和前半まで続いたが機械化が進んだいま、そんな重労働には戻れない。
 ▼耕す意味は、土壌に有機物や水分、空気を含ませ微生物の活動を活発にし植物の伸長を促すため。耕起は古代から続くが技術革新は進まず、江戸後期から明治期にかけ農具類が飛躍的に改良されたという。人手や畜力に代わる「原動機付き」農機の普及は昭和30年代。「三ちゃん農業」「過剰投資」の言葉がはやり、農村部が労働者の供給基地として高度経済成長期を支えた。
 ▼『トラクターの世界史』(藤原辰史著)では、大型機械化の先駆、米国でもトラクターの販売当初、農家は「鉄で土を切り裂く」行為に抵抗感や、轟音〈ごうおん〉・振動に嫌悪を感じた。だが「餌いらずで働き続ける」と言う若者の効率論が勝り一気に普及した。
 ▼機械が化学肥料や農薬開発を促し、有機物還元を忘れ鉄爪による耕起で乾燥表土は流亡。スタインベックは『怒りの葡萄〈ぶどう〉』で近代農法を批判した。今や人・畜力耕には戻れない。が、近代農法が生み出す効率性と、引き換えにする大事なものは何か?を考えねばならない。