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防風林「集落の維持、残すべきものは何なのか【2018年12月3週号】」

 ▼辺境の農村集落や地方の住宅街など、生涯を通じ全国のさまざまな民家を画題に描き続けた画家、故・向井潤吉氏の企画展が開かれる美術館に足を運んだ。
 ▼起伏のある傾斜地を背景に数軒の田舎屋敷が集合する集落。当初、住民の姿が見えない風景に物悲しさを感じたが、庭で干す洗濯物が穏やかな生活空間を示すことに気づいた。写生地は、山形県朝日村田麦俣。江戸期末に建築された特異な形状の「兜造りの多層民家」を絵画の中に残した。
 ▼「聚落(しゅうらく)」と題した絵の前でしばし。囲炉裏からたち登る薪(たきぎ)の煙で燻(いぶ)された梁(はり)や柱の匂いを、かつて訪ねた農家と共に記憶が甦(よみがえ)る。経済成長のうねりにのまれ多層民家のある集落は一変したという。時の流れは気候・風土に起因しない住居に変えてしまう......そんな憂いから全国を巡りキャンバスに向かったに違いない。
 ▼今、国道や県道周辺の開発が進んだかつての農地は、新興住宅や郊外型店舗が建ち自動車や人の往来でにぎわうが、田のひこばえもあぜ道も消え、生息していたはずの動植物や農の営みなど、集落の残影は欠片(かけら)も残されてはいない。
 ▼世は、情報技術や農業ロボットが注目され、それが農村の活性化を呼ぶのだそう。集落住民の連携やそれぞれの知恵で、「むら」は再生できる。次回発行の新年号に「聚落」を掲載する。まだ遅くない。残すべき大切なものは何かを感じられるはずだ。