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防風林「種を育む農家の姿勢は次の代にも継がれる【2019年2月1週号】」

 ▼埼玉県秩父地方。地場資源であるセメント原料の採掘で山肌が露(あら)わな名峰・武甲山や秩父連山の麓で、観光農園を営みながら詩作を続ける八木原章雄さん方を昨年末に訪ね、継続する人だけが実感する奥深さを垣間見た。
 ▼畑には、莢(さや)から弾け出そうな大豆が茂っていた。数株の莢から数粒を掌に載せて見せてくれた中には、薄黒色や茶色などの穀粒が混ざる。八木原さんが採種し続けるのは地元在来種「借金なし」。色・形状が異なる変異粒の発現が多く、選抜し畝を変えて植え固定する。
 ▼名称につく「なし」は、借金を「成す(する)」ではなくて、「返済する」という意を指す。筆者の故郷、日本海側でも「なす」を同じ意味で使う習慣があり、調べると北陸でも同名大豆があるという。借金をすぐに返せるぐらい多くの実を付けて家計を潤せる......との特性が名前の由来らしい。
 ▼秩父地方では大正期からの栽培といわれ、国内主力品種「エンレイ」や「タマホマレ」などとは一線を画し、徐々に地域で作付けが減少していった来歴をもつ。水稲も旧・農林省農事試験場(埼玉県鴻巣市)時代の育成品種から、着色粒など変異粒を選抜・播種し続けて、育成した農作物を来園者やお客に提供している。
 ▼農業はそもそも「生業(なりわい)」で収益追求は当然の理(ことわり)。だが、理想や考え方を、農法や品種に具現化させることに精魂込める農業や農家がいていい。県農業大学校を今春、卒業するお孫さんも就農する予定という。こうして種と共に農の姿勢は継続していくのだ。