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防風林「子供の命や権利を守るのはもはや地域が最後の砦【2019年2月4週号】」

 ▼親獅子はわが子を千尋の谷に突き落とし、這(は)い上がってきた子供だけを育てるという。百獣の王として原野に君臨するには強いことだけが条件、生き残りのための野生界の過酷な選択なのかも。
 ▼松本清張原作の映画「鬼畜」(野村芳太郎監督、1978年)は、不倫相手が生んだわが子を押し付けられた男が、子のいない正妻の指示で躊躇(ちゅうちょ)の末に息子を海に突き落とす物語だ。幸いにも漁師に救われた子供。刑事から父親かの確認を求められ、「知らないおじちゃんだ」と父親をかばうけなげな子供の姿に涙した記憶のある方も多いのでは。
 ▼近年の子供虐待死事件報道のたび、この映画が脳裏をよぎり鬼畜にも劣る犯行と憤る。映画の父親は息子の生存を知った安堵(あんど)と罪の深さに号泣し人としての片鱗(へんりん)を見せる。だが現実はどうか。「これからもっといい子になります」と書き残した子。一縷(いちる)の救いを求めて親の暴力を訴えるも、児童相談所が親に文章を見せたうえ親に引き渡された子。
 ▼未然に命を守れなかった社会に問題があろう。民法で親は子供を「懲戒」する権利を認める。躾か虐待かの判断は難しく、農村部においてさえ近隣住民による監視・通報や警察官の介入を妨げる要因とされている。
 ▼欧米には、児童の権利や命を守る独立した捜査機関を設け逮捕権を行使できる国もあると聞く。親や仲間による暴力・虐待から子供を守り救う手だては、もはや地域が立ち上がるしかないのではないか。