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防風林「夫婦円満が経営にも影響する【2019年3月1週号】」

 ▼そろいの作業着で米穀商店の開店準備に忙しい夫妻の姿が、毎朝の通勤途中の風景。落語『三年目』を思い浮かべる。
 ▼貧乏長屋に仲むつまじい夫婦が一組。病気の妻に、夫は少ない給金から高価な薬を買い看病の日々。妻の「いつもすまないね」の労(ねぎら)いに、「当たりめえヨ」と近所でも評判のおしどりぶり。
 ▼「私が死んだら後添えをもらっておくんなさいね」と妻。「女房はお前だけ。でもよ、断りきれず嫁を貰(もら)わねばならねえこともある。そんときゃあ祝言の夜に幽霊になって出て来ておくれ」。後妻は恐れおののき逃げ出すという算段だ。妻も「あいよ」とうなづいた。
 ▼まもなく、妻はあの世へと旅立った。成仏するよう髪を剃(そ)り、念ごろに葬り数カ月。長屋の主からの再婚話がまとまり祝言の夜。寝間で「早く早く」と呟(つぶや)く夫に顔を赤らめる新妻。「違う違う」と焦る夫。当夜も次の夜も前妻の幽霊は現れない。後妻とは相性もよく子供が産まれ新所帯は順調。
 ▼祝言から3年目の夜、枕元に前妻の幽霊が。「俺との約束破って何でえ今ごろ」。「私も出てきたかった。あんたが剃った髪が伸びるのに今までかかったの」。幽霊になった妻の夫への愛にほろり。しかし現実は小言の応酬ばかりの家庭も。漱石は「智に働けば角が立つ。情に棹(さお)せば流される。意地を通せば窮屈だ」と『草枕』に人間関係の難しさを描く。夫唱婦随、そろいの作業着で関係修復すれば、"とかく住みやすい"家庭になるのか。