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防風林「山地酪農の家族経営、継続に幼子の姿が【2019年4月2週号】」

 ▼「ルールルルル」数十年前のテレビドラマ「北の国から」(脚本家・倉本聰)で、北海道富良野に家族とともに移住した主人公・五郎の娘・蛍が野生キタキツネを呼ぶ声が印象的。厳しい自然のなか地元住民との交流を描いた。8編の特別編を含め約20年間続いた。
 ▼岩手県田野畑村で「山地酪農」を営むため入植した吉塚公雄さん一家を24年間も追い続けたドキュメンタリー映画「山懐に抱かれて」の試写を観た。プレハブでのランプ生活を続け、7人の子供たちも斜面で草地造りや丸太運びに労働する。
 ▼夫婦が求め続けてきた夢と理想は、乳量や乳価の課題を抱えながらも銘柄乳業を設立し安定化の足掛かりを築く。家族労働で第2牧場を計画する父の展望に対して、子供たちにも異なる希望や計画が芽生える。子供の成長と理解しつつ激しく衝突する親子の姿は、耕種農家も共感できる現実か。
 ▼山地酪農だけでなく、地域の食文化と結びついた伝統野菜や工芸品原料の植物生産は、その継続に危機感を抱かざるを得ない分野が多い。その多くが継承者のいない家族型経営。夢や理想と現実の生活との葛藤だ。
 ▼映画では子供らが幼い頃に集ったヤマナシの木を象徴的に描く。やがて種子は風で異なる地へ、また一つは足元にポトリと落ち萌芽し山地酪農は継続する。終盤に牛の追い込みを手伝う幼い男児(孫)が両手を上げ方向を変えさせる初仕事。なぜか、北の国からの「ルールル」が聞こえた気が。この子が10年後に山懐に抱かれていればと。