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防風林「好物といえども・・・。【2019年4月3週号】」

 ▼昔のテレビドラマに、おからが大好物の浪人を主人公にした時代劇があった。おからの匂いにつられ、ふらふらと居酒屋に入ってしまい、ありったけを平らげる。腕の立つ剣豪でありながら、好物を前にだらしのない姿を見せるギャップが面白かった。
 ▼桜前線が北上し、東北北部にさしかかった。これからの時期、田植えをはじめとした農繁期を迎えると同時に、山菜シーズンも到来する。東北地方のふるさとでは、春はタケノコ(ネマガリタケ)の料理が食卓に並ぶ。農作業の合間に、家族で山に入って採るほか、隣近所からのお裾分けが届く。旬の時期の台所には、山のようにタケノコがあった。
 ▼新鮮なタケノコはシャキシャキと歯触りもよい。初めのうちはみそ汁に炒め物、飯ずしと多くの料理が並んでも、むさぼるように平らげる。しかし、旬の食材を使ったおいしい料理も1週間以上続くとさすがに飽きて手が伸びなくなり、以後は半ば義務感で食べるようになる。保存用に缶詰や瓶詰を大量に作っても残るタケノコを使い切ろうと、母親は献立に苦労していた。
 ▼そうした経験から、旬という言葉には、若干複雑な思いがある。ただ、東京に暮らす現在では、新鮮なタケノコを飽きるまで食べることはなく、豊かでぜいたくな時間を過ごしたのだと振り返る。食べ飽きて献立に苦労するのも承知の上で、今年も家族で山に入り、隣近所とお裾分けし合い、山ほどの旬のタケノコを堪能するのだろう。