今週のヘッドライン: 2018年07月 2週号
農業従事者の平均年齢が67歳となるなど将来的な担い手不足が懸念される中で、人材の育成・確保は急務だ。ICT(情報通信技術)などを活用して篤農家の熟練作業や栽培環境を"見える化"する取り組みも広がっている。徳島県海部〈かいふ〉郡3町(牟岐〈むぎ〉町、美波町、海陽町)とJAかいふ、県南部総合県民局で構成する「海部次世代園芸産地創生推進協議会」では、地域の特産物である促成キュウリを核に、10アール当たり収量30トン以上などを目標とする計画を掲げ、産地再生に取り組む。養液栽培と環境制御を導入する拠点「次世代園芸実験ハウス」を整備するほか、県内外から募った移住・就農希望者が栽培技術を学ぶ「海部きゅうり塾」を開講。取り組みから4年目を迎え、17人(10戸)が就農するなど成果が挙がっている。
今国会の焦点となっていた米国を除く環太平洋連携協定(TPP)11の関連法が成立した。国内手続きの完了はメキシコに続く2カ国目。政府は年内にも巨大自由貿易圏を誕生させ、トランプ米政権をけん制するとともに、TPPへの復帰を促したい考えだ。ただ、過去最大規模の農産物市場の開放となる協定の発効に、生産現場の不安は依然強い。さらにトランプ政権は米国第一主義の姿勢を強めており、日米の新たな貿易協議(FFR)などを通じてTPPを超える譲歩を迫られる可能性も高まる。自由貿易の推進は経済の発展に資する一方、国内農業・農村に深刻な打撃を与える恐れがある。世界人口の増加や気象災害の多発など食料の国際需給は不安定さが増す中、食料安全保障を確保する観点からも持続可能な農業を確立する万全の対策が不可欠だ。
6月下旬からの台風7号と活発化した前線が東日本から西日本に停滞した影響により、各地で記録的な大雨に見舞われ、河川の氾濫や土砂崩れ、家屋の浸水などの被害が発生。農業関係でも農地の冠水・浸水や土砂の流入、畦畔(けいはん)の崩落など被害が確認されている。被災地域のNOSAIでは、早期の共済金支払いに向け、被害状況の把握と迅速で適正な損害評価の実施に全力を挙げている。
10年、20年に一度といわれる自然災害が全国各地で毎年のように起こっている。地震の発生も相次いでおり、6月18日には大阪府北部を震源とした最大震度6弱(マグニチュード6.1)の地震が発生した。台風シーズンが本格化し、強風や大雨などによる自然災害への灸備え究の重要度は高まっている。災害発生時の、避難の心構えや準備、避難場所について、ソナエルワークス代表の高荷智也さんに聞いた。
台風シーズンがいよいよ本格的に始まる。台風は突風や大雨に伴う河川の氾濫などで園芸施設に営農継続が困難になるような被害を引き起こすこともあるため、園芸施設共済に加入し備えを万全にしたい。昨年の台風でハウスなどに被害を受けた、高知県芸西村西分の2人の農家に被害の状況や園芸施設共済の補償について聞いた。
豆類の生産振興を図る2017年度の全国豆類経営改善共励会(JA全中ほか主催)の表彰式が6月28日、東京都内で開かれ、全国から応募のあった128点から栽培技術や生産コスト低減などに優れた11点が表彰された。そのうち、大豆栽培で農林水産大臣賞を受賞した3組の経営概要を紹介する。
【大阪支局】イチゴの促成栽培に取り組む高槻市塚原の寺田義弘さん(61)は、ハウスの建て替えを機に、栽培の高度化を図るため、LED(発光ダイオード)電球による電照栽培のほか、さまざまな装置を導入した。「LED電球を用いると、蛍光灯に比べて生育が早く、植物が必要とする波長が多く当たるのでイチゴの品質が向上した」と寺田さん。導入後の17年産の収量は蛍光灯より19%増加した。
〈写真:「LED電球は、植物が必要とする波長を当てることができる」と寺田さん〉
【愛媛支局】越智今治農協が栽培を推進している地中海原産の常緑樹「ビブルナム・ティナス」。国内産が少ないため、輸入品にはない鮮度の良さをアピールしたことなどが奏功し、フラワーアレンジメントの花材として人気が出ている。越智今治農協では、特級品のビブルナム・ティナスを「らめらいと」と命名し、ブランド化を図っている。らめらいとの認定には、厳しい規格をクリアする必要があり、出荷量の約2%にとどまる。
〈写真:花材で人気があるピットスポラムも栽培する武田さんと妻の悦子さん〉
【福島支局】川俣町山木屋地区の「農事組合法人ヒュッテファーム」は、東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で避難区域に指定されていた同地区で、農地保全を目的に農地を借り受け、飼料作物を作付けている。生産拡大とともに、住民らが帰還後すぐに営農再開が行えるよう環境を整える計画だ。現在は、畜産農家向けに良質の飼料を提供するため、土作りを続け、飼料を貯蔵する大型倉庫の建設を進めている。
〈写真:県の営農再開支援事業で年4回の除草と耕起作業の保全管理を実施〉
【香川支局】「手間を省き、高齢になっても栽培を続けられるよう工夫しています」と話す観音寺市大野原町の細川克彦さん(75)。夫婦二人でモロヘイヤ5アールを生産している。細川さんは「出荷は1箱2キロと軽量で、毎日収穫しなくてもすむ。作業性に優れ栄養価も高いモロヘイヤ栽培は、年配の方に適しています」と勧める。
〈写真:「早期栽培して高利益を目指しています」と細川さん〉
【宮崎支局】「農業機械のネズミ被害は、市販の衣類用防虫剤で最小限に抑えられますよ」と話すのは小林市野尻町の國分正俊(こくぶん・まさとし)さん(59)。機械を保管する際、有臭系の防虫剤を機械の足回りや隙間に設置し、ブルーシートをかぶせる。実践して10年以上、ネズミによる被害は発生していない。
〈写真:防虫剤はネズミの侵入口となるコンバインのクローラー・揺動棚に設置〉
▼編集部あてに月1回ぐらいの割合で、はがきの裏と表までを使い、日ごろ見聞きしたことや折節の思いなどを送ってくださる読者がいる。
▼残念なのが、住所やお名前の記入がなくて返信やお礼の手紙ができないこと。消印は鹿児島県の南に位置するある市の郵便局のもの。文字の姿から女性なのではと想像。お名前が書き記されていないのは、本欄担当者につぶやくことで、「気持ちも晴れやかになれるからなのかな?」との判断。
▼中国地方の60歳代後半の水稲農家さんは、作期や食味の異なる十数品種を作付けて、自宅近くの店舗で直売していた。そんな姿勢に共感しながら取材を進めていた終盤、「最近は体力が衰えて、そろそろ引退すべきかな」とつぶやいた。「これほど立派な農業をされていてお元気そうなのに何を言うのですか」と強めの語気で反論をしてしまった。
▼その数週間前に聞いた、80歳を過ぎても「担い手」を自負する老農家の言葉を伝えなければと思ったからだ。「高齢者だからこそ、楽するための新技術を導入するのは当然ではないか」と。「負けてはいられない。さっきの引退話は撤回だ、もう少し続けようと思う」。
▼農業・農村を経済性と効率化で解決できるとする〝上から目線〟の規制改革と銘打つ論理が、地域の人々の心に光明を照らさないのは、農村から学びも返しもしていないから。知ったかぶりの専門家は、現場で悩んで再起する農家の姿を知るよしもない。守るべきは農家の意欲のはずだ。