今週のヘッドライン: 2019年11月 2週号
米の新しい可能性を米粉に見いだし、自家産米を使った生パスタを製造・販売するのは、兵庫県姫路市山田町の農業生産法人「小川農園」(小川亮一代表、60歳)。米粉の加工適性に優れる「ミズホチカラ」を生産し、加工・製造した生パスタを自ら経営する生パスタ工房&農家イタリアンレストラン「pasta sorriso(パスタ ソリーゾ)」で提供する。個人向けや業務用の直接販売にも力を入れ、特に東京や大阪など都市圏を中心に引き合いが強い。自家産米を主原料に、生パスタの本場であるイタリア産品と比べても遜色ない味を実現。地域から全国に発信しようと奮闘している。
政府は7日、台風19号や台風15号など一連の豪雨・暴風災害に対し、被災者の生活と事業再建に向けた支援パッケージを決定した。農業関係では、浸水被害を受けた果樹園地の省力樹形への植え替え支援や大規模改植の追加支援、倉庫に保管した米が浸水で出荷不能となった農家への特別対策を措置し、早期の営農再開を図る。農林水産省では、今後の農業保険加入などを各支援策の要件として、農家の経営リスクへの備えを後押しする。
農林水産省は6日、食料・農業・農村政策審議会畜産部会を開き、次期「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(酪肉近基本方針)の策定に向け、肉用牛・食肉関係の課題を議論した。食肉需要は拡大傾向にあり、国内の牛肉生産量も回復の兆しが見られる。ただ、生産現場では農家数の減少に歯止めがかからず、高齢化や後継者不足などが深刻化。環太平洋連携協定(TPP)11など貿易自由化への対応強化なども大きな課題となっている。生産基盤の強化が見通せる方針策定と、次世代が育つ実効性ある対策の構築が求められる。
相次ぐ台風襲来など全国各地で災害が多発する中、NOSAI団体では共済金の早期支払いとともに、収入保険制度で措置されている「つなぎ資金」の貸し付けを通じて被災農業者の経営再開支援に全力を挙げている。つなぎ資金は、事故発生から保険金等の支払いまでの間の加入農業者の資金繰りを支援する措置で、制度の実施主体であるNOSAI全国連(全国農業共済組合連合会)では、迅速な審査に努め、申し出から約1カ月で貸し付けを実施。さらに台風19号の被災地に職員を派遣し、地域のNOSAI組合等と連携して生産現場で一層の制度普及に当たっている。農業経営を守り、営農再開を後押しする収入保険制度の機能発揮へ組織一丸で取り組みを強化する。
「集落の合意を得て、有限会社を立ち上げ、集落外からも作業受託できるようになったことが2段階制のメリット」と話すのは、岩手県一関市花泉町で水稲約27ヘクタールや飼料用作物21ヘクタールなどを栽培する有限会社ドリファー花泉の阿部信夫代表取締役(70)。ドリファー花泉は上金森集落の農家で構成する上金森集落営農組合(組合員29戸)の有志で設立した。集落営農組合と有限会社の2段階制にすることで、自ら営農したい農家にも集落営農組合に加入してもらえたほか、上金森集落以外の農地の受託も実現し、地域農業の維持に貢献している。
大豆「フクユタカ」15ヘクタールを作付け、多収技術である早期播種(早まき)に取り組む三重県鈴鹿市の西村直也さん(29)は、県平均収量が10アール当たり90キロ前後と低迷する中で、2017年は約130キロを確保している。基肥を施用せず、追肥重点体系で徒長を抑えている。早まきで必要とされる摘芯作業が省略され、専用の摘芯機があ不要だ。さらに、20センチの高畝で倒伏防止を徹底し、等級は1等が8割ほどとなっている。
日本をはじめ、中国や韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドなど計16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の首脳会合が4日、タイ・バンコクで開かれた。目標としていた年内妥結を断念したものの、共同声明では、インドを除く15カ国は交渉分野でほぼ合意したことを明らかにし、2020年中の署名へ法的精査を始めることを明記した。
営農に参画する家族全員が働きやすい就業環境を目指し、農業経営の方針や就業規則などを家族間の話し合いで決める家族経営協定。協定を結ぶ農家数は年々増加傾向にあり、農林水産省によると、2019年3月31日時点で締結農家数は5万8182戸となっている。実際に協定を締結している3人の農家に、経営や働き方の改善に役立った経験、家族協定が大切と思うポイントを紹介してもらう。
農林水産省は1日、食料・農業・農村政策審議会農業保険部会を開いた。
委員改選に伴い、部会長には新任の上岡美保委員(東京農業大学国際食料情報学部国際食農科学科教授)が互選で選任された。
農林水産大臣の諮問を受け、2020年1月から適用する家畜共済の共済掛金標準率の算定方式の考え方、家畜共済診療点数表の改定の考え方、家畜共済診療点数表付表薬価基準表に収載できる医薬品の基準および価格の算定方法について、審議した。7月から8月にかけて開かれた家畜共済小委員会の報告を踏まえて、諮問事項は全て適当と認め、農林水産大臣に答申することとなった。
【山形支局】「農業部に入ってからは毎日が勉強です」と話すのは、県立村山産業高等学校(村山市、大山慎一校長)農業部2年の鈴木千夏さん。部員約50人の同部は、研究内容からバイオテクノロジー、畜産、グリーンライフの3班に分かれて活動する。鈴木さんが所属するバイオテクノロジー班は、研究テーマの一つに「エンドファイトで農業革命!ソバ栽培における施肥削減技術の開発」に取り組み大きな成果を上げた。
〈写真:シンガポールで発表した笹原さん、佐藤さんと、2年の鈴木さん(写真左から)〉
【北海道支局】千歳市の株式会社戸田牧場(戸田秀美社長)では、牛群管理を行うため、牛の行動を記録するU―motion(ユー・モーション=デザミス株式会社が開発)を2019年6月に導入。飼養する90頭のうち60頭にセンサーを取り付け、分娩後40日から乾乳前までの牛の行動のモニタリングを始めた。計測機器を取り付けた牛個体から得られる情報を人工知能(AI)に分析させ、データとして可視化することで、より精度の高い酪農経営が可能となった。
〈写真:発情指数をスマートフォンで確認する人工授精業務担当の上杉ももこさん〉
【神奈川支局】清川村では、獣害が多い地域で葉ニンニクの栽培に取り組んでいる。JAあつぎの生産部会に所属する農家5人が、2016年から始めた葉ニンニク栽培は、獣害が深刻化する厚木市の山間地域にも広まり、現在は生産者が約30人まで増加。栽培面積は同JA管内で約40アールとなった。現在栽培する品種は、葉ニンニク専用の「ハーリック」。葉幅が広く、収量性が高いことが特徴だ。軽量で収穫や荷造りがしやすいため、高齢化が進む地域でも栽培しやすい。鱗茎を肥大させる必要がないことから、狭い山間部の農地でも栽培が可能だ。現在、サルやシカ、イノシシなどによる獣害は確認されていないが、今後も継続的に調査する。
〈写真:葉ニンニクの生育状態を確認する生産者(左)とJAあつぎ職員〉
【岩手支局】盛岡市大ヶ生の馬場貴長さん(60歳、水稲1.3ヘクタール栽培)は、今年9月から稲刈り後まで、圃場の周りに硫黄をつり下げ、シカの侵入を防止した。「家族が青森県の産直で偶然見かけて参考にした。硫黄の臭いがシカの侵入防止に効果があるらしい」と馬場さん。硫黄は圃場の周りに1~2メートル間隔、地表から1メートルの高さに設置した。「野菜用のネットを3等分に切って袋状にしたものに、硫黄を数粒入れた。硫黄が雨で溶けないように、カップゼリーなどのプラスチック容器を再利用してネットにかぶせている」と、身近な材料で装置を作製。馬場さんは「設置後は稲が倒されることが減った。来年も活用したい」と話す。
〈写真:「来春は田植え前から設置する予定」と馬場さん〉
▼秋も深まり、東京都郊外でも各地で農業祭が開かれている。新聞の折り込みチラシに近隣の市の開催案内があり、どこに行こうか検討中だ。農産物の直売も楽しみだが、宝船や品評会の様子を見ると、都市農業の活気を感じられる。
▼特に農業祭のシンボルとなる野菜の宝船は、どの会場でも堂々として見栄えがよく、毎回、圧倒される。"ばえる"スポットだけに子連れの家族らが集まり、熱心に撮影する。農業祭の終了時間が近づくと、「宝分け」として解体した宝船の野菜を配るので、長蛇の列ができる。季節感と手作り感にあふれたイベントだ。
▼都市や周辺地域で営まれる都市農業は、消費者との近さを生かした農産物供給に加え、農業体験の場、災害時の防災拠点など多様な役割が期待されている。生産緑地法の改正で、生産緑地地区の下限面積が引き下げ可能となり、賃借しやすくなるなど保全と活用を図る環境整備が進んでいる。
▼少し残念に思うのは、長く暮らす地域でも、地元農家との接点が少ないことだ。日中は勤めに出て地元にいない当方の問題もある。農業祭では、直売テントで農家から直接農産物などを購入できるほか、女性部や青壮年部の出店もあり、顔見知りを増やす機会になる。
▼期待される反面、通勤途中の農地には、缶や包装袋などのゴミも目立つ。捨てる人には、食べ物を作る場所と想像できないのだ。もっと交流の機会を増やせないか。