今週のヘッドライン: 2020年02月 2週号
「農業の"の"の字も分からなかった私が、今こうして営農できているのは荒木さん夫妻のおかげ」とネパール出身のダルマ・ラマさん(46)。富山県射水市円池の株式会社葉っぴーFarmの代表を務める。前代表の荒木龍憲さん(67)・真理子さん(62)夫妻から経営を引き継ぎ、コマツナなどを生産する。2014年から3年間研修を受けて技術を習得。17年7月に代表に就任した。ハウスを増棟して規模拡大を図るほか、農園併設のカフェでネパール料理を提供するなど、地域に溶け込み、新たな担い手として活動する。龍憲さんは「私たちの代で廃業となると、ハウスを処分して更地にする必要があった。資源を引き続き活用し、後を継いでくれたのはとてもうれしい」と喜んでいる。
持続可能な農業生産の実現に向けて、環境保全型農業をけん引してきたエコファーマーが岐路に立っている。環境保全型農業の啓発、推進が一定の成果を得たとして「全国エコファーマーネットワーク」は4日、3月末をもって解散すると発表した。エコファーマーの認定件数は2011年度から減少に転じ、18年度は9万5147件とピーク時の半分以下になった。地球温暖化防止や生物多様性保全、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の達成など、農業が持つ多面的機能への注目が高まる中で、エコファーマーの取り組みが後退しないよう政策への位置付けを明確化する必要がある。
農林水産省は7日、2019年の農林水産物・食品の輸出金額(速報値)が前年産比0.6%増の9121億円になったと発表した=グラフ。7年連続で前年を上回り、過去最高を更新したものの、伸び率は大幅に鈍化。19年に1兆円に引き上げるとした政府目標は未達となった。対策のてこ入れへ、政府は農産物輸出促進法に基づき今年4月に設置する「農林水産物・食品輸出本部」を司令塔に、輸出相手国との規制協議など取り組みを強化する。
昨年も台風など大規模な自然災害が各地で頻発し、農業に大きな被害をもたらした。さらに、暖冬の影響でダイコンなど野菜の価格が低下し、経営への影響が心配される。収入保険は自然災害のほか、価格低下などさまざまな要因による収入減少を補てんする。安い保険料で加入できるタイプも新設され、より加入しやすくなった。青色申告を実施している場合は加入して、予期せぬ収入減少に備えてほしい。収入保険について共子さんが済太郎くんに聞いた。
「農園も時代に合わせて変わっていかないといけない。経営者は人の意見を聞いて柔軟に経営することが大事」と話すのは、寺田農園株式会社の寺田昌史〈まさふみ〉代表(51)。奈良県葛城〈かつらぎ〉市大畑でハーブやイチゴを栽培する。大阪市内のマルシェに出店し、農園の様子などを伝えながら、イチゴの購入が約1時間待ちになるなど人気を博している。夏場の高温でハーブ栽培が難しくなったことから、従業員の提案を受けてマイクロリーフ栽培を始めるなど、柔軟な経営に取り組む。
水田の法面〈のりめん〉管理の省力化として、秋以降の生育が早い冬芝「ハードフェスク」を繁茂させて雑草を抑える技術を鳥取県農業試験場が開発し、中山間地域を中心に普及を進めている。稲刈り後の秋に除草剤で既存の雑草を除草してから播種し、芝への影響が少ない抑草剤散布と組み合わせる。翌年夏までに地表を覆い、雑草の発生を抑制でき、草刈りを年1回以下に抑えられる。
高齢者の誤飲・誤食事故が増えている。中毒事故の事例や、未然に防ぐための注意点、特に認知症患者の家族や介護者が気をつけるべきことなどを、公益財団法人日本中毒情報センター理事・大阪中毒110番施設長の遠藤容子さんに教えてもらう。
日本施設園芸協会は4、5日に都内でセミナーを開き、ナスやキュウリなど果菜類の養液栽培や環境制御による多収の実証事例が報告された。先端技術の開発や導入がトマトを中心に進む中、生産の拡大を目指す他品目にも取り組みが広がっている。
【岩手支局】飼料用米種子の販売などを行う奥州市江刺の有限会社ピース。毎年およそ10トンの種子の注文があるという。試験栽培時から積み重ねた実績をもとに、飼料用米栽培に挑戦する農家にアドバイスをし、作業受託でも支えている。同社は2014年からは飼料用米(品種「いわいだわら」)を栽培。現在は主食用米5ヘクタール、飼料用米5ヘクタール、大豆30ヘクタールを栽培するほか、水稲、大豆などの農作業を請け負う。「いわいだわらは、本州最多の10アール当たり842キロの収量を記録した品種。実際に試験栽培を行ったが、収量の多さに驚いた。倒伏や病害にも強い」と話すのは、同社の家子秀都〈いえこ・みつひろ〉代表取締役(47)。
〈写真:「飼料用米の栽培が経営の選択肢のひとつになれば」と家子代表〉
【山形支局】「喜んで食べてくれたり、加工したりする人がいる限り、『亀ノ尾』の栽培を続けていきたい」と話す庄内町小出新田の阿部耕祐さん(60)。亀ノ尾はブランド米「つや姫」「ひとめぼれ」「コシヒカリ」などのルーツで、阿部さんの高祖父・亀治さんが約120年前に育成した。阿部さんは80アールで栽培し、酒造好適米として地元の酒蔵に出荷。一般食用として食べたいという知人に譲るなど、種子をなくすことなく継続的に栽培し続けている。
〈写真:亀ノ尾について説明する阿部さん〉
【熊本支局】「農薬を使わない栽培は除草が一番大変。これを作って楽になった」と話す南阿蘇村の上野則寛さん(67)。水田の除草の労力を軽減するため、乗用田植機を改良した除草機を活用している。上野さんは観光ブドウ園を経営するほか、水稲500アール(農薬不使用が100アール)、発酵粗飼料用稲100アール、ソバ60アール、コーヒーノキ10アールを栽培。大型農機具の修理やメンテナンス、農機具の改良も手掛ける。上野さんは乗用田植機に歩行用の除草回転部をアタッチメントとして取り付け、除草機として活用。さらに、背負動力散布機を取り付けて、除草剤散布やソバの播種などにも利用するという。
〈写真:改良した除草機と上野さん。地元で「上野鉄工所」と呼ばれるほど頼られている〉
【鳥取支局】鳥取県東部地域では、シカやイノシシを地域資源として有効利用する目的で、「いなばのジビエ推進協議会」(鳥取市鹿野町)を2012年に設立した。狩猟者や解体処理者、飲食店、行政、商工会など、ジビエの関係者が連携した全国初の組織で、需要の喚起を促す普及啓発にも力を入れている。普及啓発の一環で、17年度から県全域の小中学校でジビエ給食の提供を開始。現在、県内19市町村のうち13市町村で提供している。食肉学校の講師による専門的な技術研修や、現場が求める商品の研修を料理人から受けるなど、さまざまな分野の専門家から学び、解体処理のスキル向上につながった。学んだスキルを、猟友会や協議会会員に浸透させることで、地域全体の品質レベルの向上に成功した。
〈写真:鳥取市内で和食としてジビエを提供する「鰻・郷恩料理梅乃井」店主の宮﨑博士さん〉
【大分支局】「素材の甘味と香りを生かし、体に優しい芋蜜を作りました」と話す大分市中戸次の後藤忠昭さん(70)=さとやま農園代表。地域の耕作放棄地を開墾し、クリ(60アール)やサツマイモ(7アール)、落花生(10アール)などを栽培する傍ら、菓子の開発・製造に取り組んでいる。後藤さんは2015年に加工所を新設し、菓子作りを始めた。サツマイモから搾った天然シロップ「里山の芋蜜」は、熟成焼き芋を製造・販売する過程で発想が生まれた。芋蜜はヨーグルトやフランスパンと一緒に食べると、自然の香りや甘さが楽しめ、コーヒーや紅茶、焼酎に混ぜても良いという。
〈写真:里山の芋蜜=べにはるか・紫芋のセット(140グラム×2本。3200円、税別・送料別途)〉
▼四国某県で1頭当たり年間平均乳量1万キロ超の酪農家を取材したとき、午前7時から翌日の午前1時ごろまで1日4回搾乳すると聞き、自分にはまねできないと舌を巻いた。20年ほど前の話だ。本人は、酪農が好きで作業の合間にしっかり休んでいると笑顔をみせていた。
▼政府は、1億総活躍社会の実現を掲げて「働き方改革」を推進する。やりがいを実感でき、働きやすい環境を整えるには、長時間労働をはじめ身体的・精神的な負担を減らす必要がある。今から思えば、酪農家本人は納得ずくでも家族はどう思っていたかが気にかかる。後継者はできただろうか。
▼農業は、長時間労働で身体的な負担も大きいイメージが強く、実際にそうした働き方になっている人も多い。取り扱いは軽量な葉物野菜でも、新鮮なうちにスーパーなどに届けるため、夕食後から夜中まで袋詰めをするという農家も取材した。
▼24時間営業が当然とされていたコンビニエンスストア業界では、加盟店オーナーが悲鳴をあげ、時短営業の実施など見直しが始まっている。これまで定着してきた慣習も含め、無理な労働となっていないかを検証し、必要に応じた見直しを考えるときがきているようだ。
▼都市部の若者が農村部への移住や行き来を志向する田園回帰の動きがある。そんな若者たちは、農業ではなく農的暮らしを求めていると言われる。情報通信技術(ICT)なども活用すれば、若者の手を借りつつ、農業の働き改革を実現できるのでは。