今週のヘッドライン: 2020年02月 3週号
獣害対策の先進地である島根県美郷町は、農研機構や企業と共同で、イノシシへの効果が高く、設置や管理がしやすい新型の電気柵を開発した。プラスチック製で高齢者や女性も持ち運びが容易で、資材コストが安い。碍子(がいし)の着脱が片手で簡単にできるため、草刈りやたるみの修正などもしやすい。農研機構の知見から、イノシシの識別能力を利用し、支柱を見えにくい赤色、柵線を見えやすい青色にして効果を高めた。町内4カ所での実証を経て、3月には市販化、全国への普及を予定する。
収入保険制度の加入農業者に対する保険金等の支払いがスタートした。制度が導入された2019年1月から12月を保険期間とする加入者のうち、同期間内の農業収入金額が基準収入金額の9割を下回った法人などが対象。税務署に青色申告書を提出後、最寄りのNOSAI団体で請求手続きを行った加入者に対し、NOSAI全国連(全国農業共済組合連合会)が迅速・適正に保険金等の支払いを進めている。
農林水産省は13日、新たな食料・農業・農村基本計画に盛り込む食料自給率目標について、飼料自給率を反映しない「産出段階」の目標を新設する方針を明らかにした。畜産分野の生産努力をより反映させるとともに、国産畜産物の消費の後押しなどにつなげるのが狙い。ただ、飼料自給率を反映した現行の自給率目標との併記となることから、国民の混乱・誤解を招くとの指摘も上がる。飼料自給率向上の機運がしぼむ恐れもあり、正しい理解の浸透には、丁寧な説明が欠かせない。長期にわたる食料自給率の低迷は生産基盤の厳しい現状を示している。国民理解のもとで自給率目標を設定し、国を挙げて達成に取り組むことが求められる。
農林水産省は10日、2020年春の農作業安全確認運動推進会議を開き、農業機械作業の死亡事故を17年の211件から22年に105件へと半減させる目標を新たに設定した。年間300件を超える農業死亡事故の約7割を農業機械作業の死亡事故が占める状況が続く中、明確な削減目標のもと、自治体や農機メーカーなど関係団体と連携して安全対策を強化する。
福井県坂井市春江町の片岡喜美子さん(78)は、自家産のもち米「たんちょうもち」や水稲「コシヒカリ」、ダイコンなどを使い、あられ餅やこうじ、漬物などを製造・販売する。1~2月の繁忙期には、日によっては10時間ほど作業し、出荷先への納品までを全て一人で担当するなど、活動的だ。豆こうじや米こうじから手作りし、塩漬けしたナスを加えて作る地域の伝統食「はまなみそ」は、作り手が減少している中で求める消費者も多く、地域の食卓を支えている。
高知県農業技術センターは、施設キュウリ栽培におけるIPM(総合的病害虫・雑草管理)技術を開発した。土着のタバコカスミカメを中心とした天敵と天敵類への影響が小さい選択性農薬、防虫ネットなど既存の防除技術を組み合わせ、薬剤抵抗性が問題となっているミナミキイロアザミウマとタバココナジラミの発生を抑制。それらが媒介する黄化えそ病などのウイルス病の発症を軽減する。アザミウマ類を対象とした化学農薬の延べ使用成分回数を4分の1以下に低減できる。同センター生産環境課・昆虫担当の中石一英チーフは「金銭的な出費の他、薬剤散布にかかる人件費や時間といったコスト全体の低減につながる」と話す。
【山口支局】「ジビエ(野生鳥獣肉)の食味や安全性を、牛や豚、鶏と同じレベルまで追求していきたい」と話す中野博文さん(47)は、長門市俵山地区の食肉処理・販売施設「俵山猪鹿工房想〈たわらやまいのしかこうぼうそう〉(増野建治代表=66歳)」の一員として、ジビエの普及に取り組んでいる。同工房では食肉処理と品質管理を重視するという。「さばき方でも肉のおいしさが変わる。牛肉などと同様においしさにこだわっていきたい」と中野さん。増野代表は「止め刺しのときに暴れると、体温が上がり肉質を下げる原因となる。素早く的確に行うようにして、品質管理に気を付けています」と話す。
〈写真:捕獲した有害獣は「個体の状態を見て食肉にするか判断します」と中野さん〉
【島根支局】地元の婦人会が中心となり、廃棄されていたイノシシの皮を使った革製品を製造・販売する美郷町吾郷地区の青空クラフト(安田兼子代表=74歳、メンバー10人)。町内で年間700頭から800頭のイノシシが捕獲され、肉は食肉などに加工するが皮は捨てられてきた。地域全体で獣害対策が進む中、立ち上がったのは地域の女性たちだった。イノシシ皮は、同町でイノシシの精肉や缶詰などの加工販売を行う「株式会社おおち山くじら」から融通してもらい、東京の加工会社でなめし処理したものを使用する。
〈写真:小物類は長く使い込むほどつやが増すという〉
【愛媛支局】県内有数の米どころ西予市宇和町田之筋地区。ここで栽培された米は「田之米〈たのまい〉」と呼ばれ、古くは伊達藩主への献上米として重用されていた。田之米を広く知ってもらおうと、田之筋地区地域づくり協議会の青年部が中心となり、甘酒「米乳〈まいにゅう〉」を商品化した。米乳は、青年部の代表を務める中野聡さん(46)が栽培した水稲うるち米「松山三井」を原料に、米と麹だけのすっきりとした甘みが特徴。アルコールは含まないため、子どもでも飲むことができ、幅広い世代で好評を得ている。
〈写真:米乳の魅力について説明する中野さん〉
【新潟支局】例年3メートルの雪が積もる豪雪地域で冬期間の仕事を確保するため、10年ほど前からハウス栽培に取り組む十日町市仁田の「株式会社たちばな」。無加温でホウレンソウと味美菜〈あじみな〉を栽培し、社員の雇用を守っている。「通常1カ月ほどで出荷できますが、無加温なので収穫までに2カ月かかります。収益が多く見込めるわけではありません」と話すのは、同社代表取締役の田中茂夫さん(71)。今シーズンはトンネルをかけ、低温時の霜対策をしてきた。今年は例年より気温が高いため、霜が降りることが無く順調に生育している。
〈写真:チンゲンサイとコマツナの性質を併せ持つ味美菜〉
【栃木支局】鹿沼市下粕尾の大森輝男さん(76)は、自宅前の畑約4アールで「日光トウガラシ」や「鷹の爪」を栽培し、オリジナルブレンドの七味唐辛子を生産している。きっかけは3年前、自宅まで来ていた唐辛子の移動販売車が営業を中止したこと。「市販のものは辛さが足らず口に合わない。それなら自分で作ろうと思い立ちました」と話す。3月下旬に播種。5月初旬には畑に移植し、約半年で収穫する。「口に入るものなので農薬は使っていません。異物の混入などに気を付けて加工しています」と大森さん。栽培中は除草のため畝にロータリーをかけるだけだ。
〈写真:「トウガラシとミカンの皮で50%、残り5種類が50%の配合」と大森さん〉
▼薬局やドラッグストアで、マスクが買えない状況がまだ続いている。入荷が少量ですぐに売り切れるため、タイミングを外すと空振りが続く。スギ花粉の飛散も始まると焦り始めたころに近所のスーパーで見つけ、十数枚購入できた。増産を促しているから、使い切るまでに品薄も解消されることを期待しよう。
▼新型コロナウイルスによる感染症は、中国への渡航歴がない人にも確認され始めている。政府は、水際対策の強化と国内のまん延防止対策を合わせた緊急対応策をまとめ、総額153億円の予算を措置した。旅行客が激減し、深刻な影響が出ている観光事業者などへの支援も盛り込んでいる。
▼今後は自治体と連携して検査や治療、相談などの体制整備と充実化を急ぐ方針だ。私たちが日常でできるのは、うがいと手洗いを励行し、外出など多くの人と接触する際に、マスクの着用を含む「せきエチケット」を実践することに尽きる。
▼ただ、テレビに出た医師が「マスクで感染は防げない」と指摘したのに驚いた。ウイルスは細菌より小さく、マスクをすり抜ける。鼻の周囲を含め、顔にぴったりさせないと隙間から容易に侵入するとの理由から、着けないよりはまし程度に考えた方がいいらしい。
▼それならマスク不足を騒いでも何にもならないと思うが、手に入らなければ不安が増すのも人の感情だ。感染者の増加も懸念される中、国民が冷静に対応できるよう安心への配慮は欠かせない。