今週のヘッドライン: 2020年03月 1週号
「良品生産の実現は、適地適作と環境整備がウエートの7割を占める」と話す、コーラルフルーツ農場代表の岡雅司さん(58)は高知県南国市を本拠に、県内三つの地域で温州ミカンをはじめ、中晩かん3品種を栽培する。大月町の農場は平たんな1枚畑に整備し、4.3ヘクタールで「日南1号」「興津早生〈おきつわせ〉」を中心に温州ミカン1万本を作付ける。圃場内は20メートルおきに幅3メートルの道を整備し、防除や収穫の際に作業車を乗り入れられるようにした。全ての圃場を同じつくりにすることで効率を高め、通常の管理は息子の翔太郎さん(26)と2人でこなしている。
農林水産省は2月26日、食料・農業・農村政策審議会果樹部会を開き、新たな「果樹農業振興基本方針」の骨子案を示した。現行の供給過剰基調に対応した生産抑制的な施策から供給力の回復と生産基盤の強化の施策に転換する方針を掲げた。具体策では、省力樹形の導入による労働生産性の向上や円滑な経営継承などを推進するとともに、カットフルーツなど果実加工品も活用して国内外に新たな市場の獲得を図る。多発する災害などへの対応では、収入保険や果樹共済への加入推進を明記した。果樹農業は、中山間地での栽培が多く、地域社会・経済の振興に大きく貢献する。世界に誇る高品質果実の生産基盤を次世代につなぐためにも展望の見える方針づくりが求められる。
「園芸施設共済の撤去費用と復旧費用の補償にも加入していたので、修理費用のほぼ満額を共済金でまかなえた」と話すのは、宮崎市高岡町でNOSAI部長を務める中村正俊さん(68)。3年に1度ほど台風の被害を受けるため、園芸施設共済は欠かせない。宮崎市糸原のNOSAI部長、松元明彦さん(59)は消防団に加入し、自身が見てきた被災の経験を組合員に伝え、建物総合共済への切り替えを促すなど組合員が充実した補償を受けられるよう加入推進に取り組む。
畜産現場で診療活動に従事する獣医師が一堂に集まり、診療技術に関する研究成果を発表する「令和元年度家畜診療等技術全国研究集会」(主催・全国農業共済協会)が2月18~19日、東京都千代田区で開かれた。20題の発表から、審査(審査委員長・佐藤繁岩手大学教授)の結果、農林水産大臣賞をNOSAI東松浦(東松浦農業共済組合)家畜診療所の内山健太郎獣医師らが発表した「肥育去勢牛に対する尿道機能を考慮した会陰部尿道瘻〈ろう〉形成術の一術式」が受賞した。また農林水産経営局長賞9点(うち吉田賞1点、奨励賞2点)、全国農業共済協会長賞10点が選ばれた。農林水産大臣賞および吉田賞・奨励賞の報告概要のほか、NOSAIみなみ(みなみ北海道農業共済組合)家畜高度医療センターの樋口徹獣医師の講演概要を紹介する。
「白オクラは栽培も出荷もとても苦労したが、需要があるので販売できるよう努力を重ねた」と話すのは、鹿児島県指宿〈いぶすき〉市山川の株式会社カマタ農園の鎌田嗣海〈つぐみ〉代表(42)。一般的なオクラに比べてみずみずしく、生食が可能で人気を集める白オクラを70アールほど栽培する。水分が多く傷つきやすい白オクラを、穴の開いたプラスチックフィルムのパッケージに入れ、冷蔵で輸送することで品質を保った状態での出荷を実現した。
先進的な経営を実践する果樹生産者などを表彰する第21回全国果樹技術・経営コンクール(中央果実協会など主催)の表彰式が2月20日、東京都港区で開かれた。農林水産大臣賞受賞者の概要を紹介する。
気象庁は2月25日、3~8月の暖候期予報を発表した。平均気温は、今春(3~5月)が全国で高く、今夏(6~8月)は全国で平年並みか高い見込み。昨年12月以降、暖冬傾向が続く中、今後も例年に比べ気温が高くなると予想され、農作物の肥培管理などに注意が必要になりそうだ。
酪農教育ファーム活動は、20年以上にわたり消費者に酪農の魅力や現場の苦労を伝えている。岡山市北区下足守で搾乳牛70余頭、育成牛50余頭を飼養する有限会社安富牧場は、酪農教育ファームの認証牧場として搾乳(1人300~500円)やバター作り(1人450円)などの体験を消費者に提供する。会長の安富正史さん(70)が活動を行うファシリテーターを務め、社長で息子の照人さん(45)や妻などとともに、週3日を基本に受け入れる。実績は年間100組以上、教育機関は30組以上だ。その一方で、口蹄疫など家畜伝染病から牧場を守るため、飼養衛生管理基準に基づいた防疫対策は欠かせない。工夫にあふれた同牧場の事例を紹介する。
【島根支局】JAしまねが2018年に策定した産地活性化プランで、販売戦略を担うチームとして誕生したのが「もっと恋しよ縁むすぶどうPJ(プロジェクト)」。「恋」「ぶどう」「出雲」をキーワードに、生産者や関係機関の「ぶどう女子」がタッグを組み、地域イベントへの参加やSNS(会員制交流サイト)を通じて出雲ブドウの魅力を発信している。プロジェクトリーダーの桑原陽子さん(46)は「出雲大社が近くにあり、縁結びにちなんで恋とブドウを連想させることを考えました」と話す。
〈写真:「産地を守りながら、おいしいブドウを全国に届けたい」と桑原さん〉
【鳥取支局】倉吉市で「倉吉スイカ」が定植期を迎えた。近年、栽培面積の拡大や就農者の増加で活気づくJA鳥取中央倉吉西瓜生産部会は、品質向上とブランド化に地域全体で取り組んでいる。同部会の中川晋詞さん(36)は「今年も部会員が一丸となって、おいしいスイカをお届けできるよう努力していきます」と意気込む。「新規就農者からベテランまで、味に違いのない出来になるよう気を配っています。併せて、栽培の勉強会も、若手だけではなく経験者向けにも開催しています。経験を重ねると独自の作り方になって味が変わってしまうこともあるので、若手に限らず学ぶことは多いと思います」
〈写真:研修を重ね今年独立する坂根雅人さん(27)。トンネルハウスの設置は「周りの方に教わりながら組みました」〉
【岩手支局】「里山の景観を残しつつ、自然や生き物と共存した農業をしたい」と話すのは、花巻市東和町上浮田の「里山耕暮〈さとやまこうぼ〉」の佐々木哲哉さん(46)。農業では条件が不利な中山間地でも、可能性を模索し、農薬を使わない水稲栽培に加え、岩手では珍しいレンコン栽培に挑戦している。佐々木さんは「収穫期まで水を切らさず、冷たい水を入れないように副水路を設けて、日頃から水の管理に気を配っている。里山からにじみ出した水を引き込めるのが中山間地ならではの利点」と話す。
〈写真:「専用のくわで傷つけないように、1本ずつ手で掘っている」と佐々木さん〉
【福井支局】「ミツバチは花の蜜を体内でろうに変化させて巣を作ります。蜜ろうは蜂蜜を取った後の巣から作ることができます」と話すのは、坂井市三国町宿で「はちみつ屋」を営む大沼照枝さん(66)。店で蜂蜜や菓子を販売する傍ら、蜜ろうキャンドル作り教室を開いている。はちみつ屋は照枝さんの夫・成章さんが経営する大沼養蜂園(巣箱200箱)の直営。主力商品は花の種類によって違う蜂蜜約10種で、副産物の蜜ろうの販売やキャンドル作り教室を通して、利用法や手作りの楽しさを伝えている。
〈写真:参加者にキャンドルの作り方を教える照枝さん〉
【石川支局】「消費者が農業や食について知る場を提供したい」と話すのは、金沢市安江町のNPO法人アグリファイブ理事長・洲崎邦郎さん(60)。県内の農産物を扱う同法人のアンテナショップ「香土」を2018年8月に開設した。また、同年11月から毎週月曜日に「月曜農活」と題し、消費者向けのワークショップを開催している。月曜農活の語り手は、毎回異なる農家が担当。第63回は、河北潟で酪農を営む澤田真さん(48)の講演が30分ほどあり、その後は参加者全員で懇談をしながら、香土で扱っている野菜を使った料理を味わった。
〈写真:好評の月曜農活。その他料理教室など各種イベントを継続して行っている〉
▼子どもが通った農業高校に、PTAのOB会という組織があり、末席に名を連ねている。内装業を営むTさんが、子どもの卒業後も学校と関わりを持ちたいと活動を始めた。圃場を一部借りて、もち米や大豆の栽培、みそ造り、茶摘みなどを実施している。もち米は、2月にPTAと合同で開く餅つきに使う。
▼会員同士の交流だけでなく、年に数回、休日に実施される生徒の課外活動の際は、カレーや豚汁など昼食を提供している。Tさんは10年ほど前に病気で片側の手足が不自由になった。しかし、今も代表としてOB会をけん引しており、参加率が低い会員としては、熱意と行動力に頭が下がる。
▼農業科を設置する高校は、全国に約300校あり、約8万人の生徒が通う。農業の担い手不足が深刻化する中、卒業生の就農に期待が寄せられている。ただ、卒業生の大半は、専門学校進学や企業に就職する進路を選ぶ。法人経営も増え、農家の子弟以外でも就農は選択肢の一つになるはずだが、希望者は少ないようだ。
▼5年ごとに見直す食料・農業・農村基本計画の策定に向けた議論が大詰めとなっている。自民党の農林関係合同会議では、農業高校生の就農促進を求める意見が多い。最先端の技術を身につけるため、老朽化する農業高校の機械・設備を農林水産省の予算で更新できないのかと訴える議員もいる。
▼生徒と合わせ、農家以外が多いPTAに働きかけはできないか。就職先と認めれば背中を押してくれるだろう。