今週のヘッドライン: 2020年03月 2週号
水稲直播栽培の面積が、東北地方を中心に伸びている。全国の実施面積は約3万3千ヘクタールで、その3分の1を東北地方が担う。農研機構が開発したプラウ耕鎮圧体系による乾田直播の導入が進み、特に宮城県での取り組みが増えている。東日本大震災以降、農地の復旧に合わせた大区画化が進展し、大規模経営の農業法人が増加。より省力的な栽培法が求められており、今後も乾田直播の面積が拡大する見込みだ。先ごろ、仙台市で開かれた農研機構東北農業研究センター主催のフォーラムから、乾田直播の現状と課題を探った。
新型コロナウイルス感染症の拡大や対策の強化などにより、農業分野にも影響・混乱が広がっている。政府の要請を受け、2日から全国のほぼ全ての公立小中高が臨時休校となり、学校給食用の食材は供給先を失った。特に給食向けに牛乳を出荷する乳業メーカーなどは、急きょ加工原料乳への転換を図るなど対応に追われており、農林水産省は、酪農家の経営と消費者の健康のため、牛乳・乳製品の積極的な消費を呼び掛けている。
農林水産省は、3月末にも新たな「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」を策定する。このほど示した骨子案では、目指す姿に「需要に応じた国産畜産物の供給の実現」「海外市場の獲得」「産業としての持続的な発展」を掲げ、生産基盤強化の具体策として、肉用牛・酪農経営の増頭・増産や、中小規模の家族経営を含む収益性の高い経営の育成などを打ち出した。農家戸数の減少に歯止めがかからず、輸入畜産物との競争激化なども予想される中、多様な担い手が安心して経営継続できる環境づくりが欠かせない。営農意欲を喚起する基本方針の策定が求められる。
農林水産省では、3月下旬をめどとした新たな「獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針」策定に向け、現在、詰めの検討を行っている。NOSAIの家畜診療所は、43道府県に223カ所あり、1700人を超える獣医師が年間の家畜診療事故約230万件のうち約7割の150万件を診療し、産業動物獣医療の大部分を担う重要な存在だ。損害防止だけでなく、家畜衛生防疫、産業動物獣医師の養成などの役割も果たし、畜産業に大きく貢献している。家畜診療所の役割について共子さんが済太郎くんに聞いた。
「身近な作業の中に改善点はある。改善の積み重ねが経営基盤の強化や働きやすい環境づくりにつながる」と、阿部梨園(宇都宮市)でマネジャーを務めながら、経営コンサルティングなどの活動をするファームサイド株式会社の佐川友彦代表は強調する。農業情報サイト「マイナビ農業」は2月28日、農家の課題解決ゼミ「本家から学ぶ!農業で実践できるトヨタ式現場改善と課題解決」を東京都内で開いた。佐川代表のほか、トヨタ自動車株式会社が培ってきた"カイゼン"と呼ばれる生産方式を応用した農業IT管理ツール「豊作計画」を運営するアグリバイオ事業部農業支援室の担当者が農業経営の現場改善について講演した。
肉用牛の繁殖性の改善・向上を通じた和子牛生産の拡大を目的に、肉用牛繁殖技術シンポジウム西日本ブロック(全国肉用牛振興基金協会主催)が2月20日、広島市で開催された。現場の事例として、岡山県新見市で繁殖肥育一貫経営をする有限会社哲多和牛牧場の木村俊哉繁殖部長が講演。増頭に伴う繁殖・哺育育成の牛舎不足から取り組んだ「親子周年放牧」の成果などを報告した。
農林水産省は2日、東日本大震災・原発事故から9年を前に、農林水産業の復興状況を公表した。津波被災農地(1万9760ヘクタール)のうち、営農再開が可能な農地は1月末時点で、前年同期比1ポイント増の93%(1万8390ヘクタール)となり、県別では岩手や宮城などはほぼ復旧が完了した。ただ、原発事故の影響が残る福島県は4ポイント増の71%で、依然3割が復旧できていない。政府は、復興庁の設置期限の10年間延長などを柱とする2021年度以降の復興政策を定めた関連法案を国会に提出した。全ての被災地が復興を実感できるまで国を挙げたサポートが求められる。
人生の締めくくりに向けて準備を整える"終活"が注目されている。葬儀など自身の希望を前もって伝えられるなど、メリットがある一方で、「具体的に何をすればいいかわからない」と悩む人も多いという。家族で確認しておきたい主な点を中心に、インターネットサイト「終活サポート」でエリアマネージャーを務める池原充子(あつこ)さんに解説してもらう。
【山梨支局】「二人ともシステムエンジニアで根を詰めて働いていたので、違う働き方、生き方をしたいと思い就農しました」と話すのは、南アルプス市南湖でキュウリとスイートコーンを栽培する古川翔太さん(34)と京子さん(41)。ハウス12棟と露地8アールで、年間にキュウリ2作、スイートコーン2作の輪作に取り組む。夫婦と子供2人の4人家族で、2017年に神奈川県から山梨県へ移住した。京子さんは「母方の実家が南アルプス市内の果樹農家です。手伝いをする中、就農を考えるようになりました」と話す。
〈写真:ハウス内で温湿度測定器を手に古川さん夫妻。自宅が離れているため、圃場入り口に防犯カメラや風速計などを設置し、スマホと連動させて管理している〉
【岩手支局】菌床シイタケ栽培に励む久慈市天神堂の鈴木優一さんは、障がい者福祉施設に農作業の支援を依頼し、労働時間短縮に成功した。農繁期は1日2時間の作業を週3回ほど依頼する。施設利用者の雇用をつくることにも効果があり、今後も連携を深める方針だ。鈴木さんは、妻の真理子さんとともに菌床シイタケ(ハウス6棟・1棟当たり菌床6千個)を栽培している。「2018年に県北広域振興局から農福連携のモデル事業の依頼を受けたのがきっかけ」と鈴木さん。農作業を依頼するのは1カ月に7回程度だが、農繁期は週3回ほど依頼することがあるという。
〈写真:菌床栽培に利用したビニール袋を職員と片付ける施設の利用者〉
【愛媛支局】伊予市中山町の保里文雄さん(70)は、ミシマサイコを50アール栽培する。「この地域でミシマサイコを栽培するのは私だけです」と保里さん。ミシマサイコはセリ科の多年草の植物で、根の部分は生薬の「柴胡」という。消炎、解熱作用があり、多くの漢方処方で用いられている。保里さんは漢方薬品メーカーと契約して栽培し、今年で7年目。契約先との間には栽培法や収穫後の加工方法などに厳しい取り決めがあり、それに従い栽培すれば安定した品質を保つことができる。
〈写真:乾燥させたミシマサイコの根切りをする保里さん〉
【石川支局】白山市宮保町高松の松田浩幸さん(51)は、「株式会社弥介さ」(野菜2ヘクタール)と運転代行業の会社を経営している。同法人で生産した野菜や加工品を、運転代行の利用客に土産として渡すサービスが好評だ。松田さんは2006年に就農し、09年に弥介さを設立。農業をしながら時間を有効活用するため、11年に運転代行業を始めた。生産品を多くの人が手にしてほしいという思いから、野菜や加工品を運転代行の利用客に渡すサービスを思い付いたという。「土産を渡すと驚かれるが、喜んでもらえる。生産品の感想を聞くこともできるので、一石二鳥だ」と松田さん。土産を楽しみに代行サービスをリピートする人も多いという。
〈写真:「農業も運転代行も日々成長が大切。みんなで力を合わせて頑張りたい」と話す松田さん(左端)と従業員の皆さん〉
【北海道支局】由仁町熊本の権平敬保さん(50)は、北海道NOSAI(北海道農業共済組合連合会)が実施する乳牛の繁殖検診で、分娩間隔が短縮するなどの成果を上げている。権平さんは「早期の妊娠鑑定と子宮の治療をしてもらえるので、いいことずくめです」と話す。権平さんは乳牛130頭(搾乳牛64頭)を飼養。繁殖検診を受け始めたのは、2010年からで、月2回、1回当たり20頭ほど受診する。検診担当は北海道NOSAI研修所係長の鈴木貴博獣医師。超音波診断装置を活用し、子宮疾患の早期発見と治療に重点を置いて検診する。
〈写真:エコー画面で子宮内の状態を確認する権平さん(右)と鈴木獣医師〉
▼東日本大震災が発生した2011年以降、避難指示や避難勧告、避難準備情報のいずれも発令していない自治体は、全国で9.5%にとどまるという。日本気象協会が推進する「トクする!防災」と「明治ほほえみ防災プロジェクト」が1788の地方自治体を対象に調査した。
▼回答した8割以上の自治体が指定避難所の開設を経験。最も多く指定避難所が開設された災害は、昨年10月の台風19号(令和元年東日本台風)で、一昨年の「平成30年7月豪雨」がそれに次ぐ。近年は、局地的な豪雨や台風の接近・上陸、地震など気象災害の激甚化が指摘されている。調査結果は、災害がどこでも起こりうることも裏付けた。
▼今回、乳幼児のいる親や妊産婦を想定した対応も調べている。災害時に乳幼児や妊産婦など要援護者を優先して受け入れる避難所設置を準備する自治体は約3割で、半数以上の自治体は「現在はなく、今後も指定する予定はない」と回答した。備蓄品の1位は紙おむつだが、購入する自治体は6割、そのまま使えて常温保存が可能な液体ミルクの備蓄は1割強とさらに少ない。
▼災害時に開設される避難所は、被災者や要援護者を守る重要な拠点だ。しかし、体育館など場の提供だけでは、着替えや授乳などもしにくく、避難所での生活を避ける人が増えている。災害で物流が遮断され、乳幼児のおむつやミルクの入手が困難になった例もある。拠点ごとの備蓄管理も大切だ。より弱い立場の避難者の不安を和らげ、物資も行き渡るよう万全の準備を求めたい。