今週のヘッドライン: 2020年03月 3週号
耕作放棄地を開墾し、サツマイモなど2ヘクタールを作付けている静岡県袋井市の寺田昇さん(76)は、市の給食センターと連携し、野菜残さを原料に堆肥づくりに挑戦している。地元農家で余ったもみ殻や鶏ふんなど地域資源も有効活用。「土で生まれたものは土に返す」をモットーに、廃棄で焼却処分にかかるエネルギーと費用を抑えて、地域貢献や環境保全を図る。栽培したサツマイモの収穫体験など、児童たちへの食育にも生かす予定だ。
新型コロナウイルス感染症の拡大で、農業分野にも大きな影響・混乱が広がっている。政府は10日、感染症対策本部を開き、学校給食の休止で影響を受けている酪農などへの支援策を盛り込んだ緊急対策第2弾を決めた。ただ、イベントや外食の自粛、旅行客の大幅な減少などに伴い、和牛や花などを中心に農畜産物の需要は急減しており、さらなる対策の強化が欠かせない。同感染症は国民の生活や経済などに深刻な影響を及ぼし始めている。国一丸で感染防止・早期収束に取り組むとともに、春作業が本格化する中、生産現場への影響軽減と国産農産物の安定生産・供給に万全を期す必要がある。
農林水産省は10日、新たな食料・農業・農村基本計画の原案を示した。人口減少や国内市場の縮小が見込まれる中、可能な限り農業生産基盤を維持していく方針を明記。2030年度の供給熱量(カロリー)ベースの食料自給率目標は45%、生産額ベースは75%に設定した。産業政策と地域政策を車の両輪として国内生産を促し、食料の安定供給を図るとともに、海外市場に向けた農林水産物・食品の輸出を促して農林漁業者の所得向上を目指す。輸出促進では、30年に輸出額を5兆円とする新たな目標を掲げた。これまでは食料自給率の目標を掲げても未達に終わっている。新たな基本計画では、農地と労働力を最大限に活用し、国内生産の維持・拡大や食料安全保障の確立に資する実効性のある施策を展開できるかが問われる。
東日本大震災の発生から9年となった11日、被災地などでは発生時刻(午後2時46分)に黙とうなどが行われ、それぞれが犠牲者の冥福を祈り、復興へ決意を新たにした。
新型コロナウイルス感染症の影響で、政府主催の追悼式が中止されるなど、各地で予定されていた追悼式は相次いで中止や規模縮小となった。首相官邸で開かれた献花式では、安倍晋三首相が「今後も被災者の生活再建のステージに応じた切れ目のない支援を行っていく」と強調。原発事故への対応では「帰還に向けた生活環境の整備や産業・生業の再生支援などを着実に進める。来年度で終了する復興・創生期間の後も次なるステージに向け全力で取り組む」と明言した。
農林水産省は6日、2020年産政府備蓄米の第3回入札結果(5日実施)を公表した。提示数量6万7604トンに対し、5万7030トンを落札。累計落札数量は19万6426トンで、買い入れ予定数量20万7千トンの94.9%となった。在庫の積み増しなどによる主食用米需給に先行き不安が強まる中、安定した売り先として備蓄米の取り組みが強化され、全量落札が見えてきた。
5月末まで行われる、春の農作業安全確認運動は「見直そう!農業機械作業の安全対策」がテーマだ。農林水産省によると、農作業中の死亡事故発生数は一般交通事故の約6倍にのぼり、近年は死亡者数が300人以上で推移している。中でもトラクターが死亡事故原因の4割を占めている。国は2022年に農業機械作業にかかる死亡事故を17年比で半減させることを目標に据えている。春作業が本格化することに合わせて、改めて事故の傾向や対策を確認しよう。
【栃木支局】小山市小薬でイチゴを栽培する「農業生産法人篠原ファーム(篠原宏明会長、57歳)」は、同市喜沢にある直営の洋菓子店「ChezFraise(シェフレ)」で自社産イチゴを使ったケーキやジェラートなどを販売している。ファームの社長は長男の和貴さん(33)、洋菓子店オーナーは妻の和香子さん(55)、店長は長女の鈴木由佳さん(31)が務め、家族一丸で6次化に取り組む。
〈写真:「来シーズンにはハウスを増築し直売所もオープンする予定です」と和貴さん(右)、篠原会長〉
【山形支局】県立農林大学校(今田邦信校長、新庄市角沢)で3月6日、52人の若者が2年間の学生生活を終え卒業した。新たなスタートを切った卒業生の中から、果樹経営学科を卒業した菊地美桜さん(20歳、朝日町)が、就農に向けて抱負を話してくれた。
〈写真:「大学校で一番広い面積を管理していたのは私ではないかなと思います」と菊地さん〉
【富山支局】射水市大島地区特産のヘチマ製品を取り扱う「へちま産業」(瀧田秀成社長、54歳)では、農薬を使用せずに栽培したヘチマを加工し、販売している。ヘチマの実は、自社でたわしや靴の中敷きなどに加工。一升瓶に集めたヘチマ水は化粧水やせっけんといったスキンケア商品、葉はヘチマ茶などの食品として外部に委託し加工する。
〈写真:「へちまここち」シリーズを手に瀧田社長〉
【鳥取支局】一般財団法人日本きのこセンターグループ(鳥取市富安)はこのほど、10分の湯戻しで調理できる乾燥シイタケの製造方法で特許を取得した。同グループ菌興椎茸協同組合の下田秀一代表理事組合長(60)は「乾燥シイタケの消費は10年間で約半分に減少した。これをきっかけに消費を増やしたい」と話す。約5年かけて2018年4月に開発した製法は、25度前後で一度乾燥した後に55度で仕上げ乾燥を行う。低温で乾燥することで、乾燥に必要な燃料を半分から3分の1に抑えられる。
〈写真:25~30時間かけて乾燥する〉
【岩手支局】「限界集落にしたくない。地元の方を雇用して、少しでも地域活性化につなげたかった」と話すのは、奥州市江刺梁川にある合同会社やながわアグリサービスの代表社員・及川豪さん(56)。現在、従業員3人を雇用する。水稲14ヘクタール、大豆3ヘクタール、ミニトマト10アールを栽培し、さらなる販路拡大を目指す。及川さんは2014年に就農。「高齢化が進んでいるが、耕作放棄地をこれ以上増やしたくない」と18年に合同会社を設立した。
〈写真:「春にはハウスを2棟増やす予定」と規模拡大を目指す及川さん〉
▼大相撲春場所は、新型コロナウイルスによる感染症対策で史上初の無観客開催となった。テレビ中継では、力士の声やぶつかり合う音の迫力など新鮮に感じる点もある。ただ、観客のいない場内は寂しく、歓声がないと応援する気持ちの盛り上がりに欠ける。
▼これまで集団感染が確認された場所の共通点は、(1)換気の悪い密閉空間(2)多くの人が密集(3)近距離(手が届く範囲)で会話や発声が行われた――の三つだ。政府の要請を受けて、音楽ライブや演劇、スポーツイベントなどの中止や延期が続き、テーマパークや遊園地も当面の休業を決めている。
▼小中学校などの休校が始まり、昼休みに職場周辺を散策すると公園やコンビニで親子連れや子どもの姿を見かけるようになった。極力外出せずに家で待機すべきとの声もあるようだが、親の負担も含め、長期間我慢を強いる状態が続くことの弊害も考えるべきだろう。
▼現状を踏まえれば、やむを得ない措置と理解するが、気持ちは割り切れない。イベントなどの中止、延期、規模縮小といった自粛ムードの高まりは、精神的な負担となって滞留する。音楽やスポーツなどが日常と密接にある生活が、いかに大切なものかと改めて思う。
▼世界的な景気後退が懸念されるほど経済的にも深刻な状況となりつつある。だが、悲観してばかりもいられない。まずは牛乳乳製品や肉を消費し、花を贈るなど、自粛対応で打撃を受ける人を支えよう。一日でも早く日常生活を取り戻すために。