今週のヘッドライン: 2020年04月 2週号
高知県本山町では、棚田100筆に水位や水温、気象条件などを計測する水田センサーを設置し、ブランド米の生産拡大を図る。農業公社と農家37戸が連携し、圃場見回りなどの省力化だけでなく、品質の統一や増収に向けた栽培技術の検討につなげる。中山間地域は、ロボット農機などの導入では条件的に不利だ。一方で、産地の強みにつなげるデータ活用や、最新機器の低コスト利用など、各地の創意工夫で技術展開が進む。中山間地でのスマート農業の可能性について不定期連載で紹介する。
農林水産省は3月31日、2020年度の麦の需給見通しを公表した。国内産小麦の流通量は、19年度見込みから17万トン増の91万トンとした。米粉用国産米の流通量は、19年度見込みを3千トン上回る3万9千トンと見通した。ノングルテン食品の需要拡大から過去最高水準となる。国産需要が高まっている小麦や米粉などは、需要と結び付いた産地形成や消費拡大の取り組みを強化することで、安定生産と収益確保など生産基盤を盤石化し、持続性の高い農業の確立が期待できる。
政府は3月31日、10年先を見通した農政の指針とする「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。「産業政策」と「地域政策」を車の両輪に国内生産を促進。食料の安定供給とともに輸出を振興し、農林漁業者の所得向上を図る方針だ。
「株式会社化で生産が増え、学校給食の納入量を満たすことができた」と話す、山形県米沢市李山〈すももやま〉の株式会社田んぼ花の里李山の後藤仁代表取締役(70)。地域グループから株式会社化し、地域の農地約20ヘクタールを借りて水稲や啓翁桜〈けいおうざくら〉などを栽培する。自前の米を米粉製品に加工し、市内の給食向けを中心に通年で販売して経営を安定させている。
「野の風ランチでございます」「またいらしてください」――従業員の元気な声が店内に響く。宮城県美里町練牛で米・大豆などを生産する株式会社はなやか(伊藤惠子代表、67歳)は、運営する農家レストラン2店舗で育児休暇や時短勤務制などを導入し、女性が働きやすい労働環境を整備する。20代から60代のパート従業員9人が働いていて、子育てや介護、家事などと両立できると喜んでいる。
水稲種子をコーティングせず、水を入れた水田に播種する「無コーティング湛水〈たんすい〉直播」の導入が進められている。コーティングの手間とコストが省けると生産者の期待が大きい。多収・安定生産へ向けたポイントとして、従来の「催芽種子」より苗立ちが良く、初期生育を向上させる「根出し種子」による直播栽培技術を紹介する。
【埼玉支局】「将来的には300ヘクタールを1単位とする大規模農場を全国的に展開したい」と話すのは、加須市戸川にある中森農産株式会社の中森剛志代表取締役(31)。同社は2017年に設立、平均年齢26歳の社員7人と加須市を中心に借りた農地で、水稲90ヘクタール、麦12ヘクタール、大豆20ヘクタールを栽培する。今年は収入保険に加入し、4月からは社員1人が加わり、新たに10ヘクタールでサツマイモ栽培をスタートさせる。
〈写真:「日本の水田農業をけん引できるような農業法人を目指したい」と中森代表〉
【埼玉支局】北本市でネギやジャガイモ、サツマイモなどを栽培する荒井利夫さん(60)は、生育初期のネギなどの土寄せ作業を効率化する器具「つちよせくん」を開発した。後ろに引いて歩くだけで、ハの字に取り付けられた車輪が土をかき上げ、均等に土寄せできる。車輪の角度や幅の調節が簡単にでき、キャベツやブロッコリー、レタスなどにも応用可能だ。作業効率は非常に高く、ネギ畑10アールで三角鎌を使い1日かかる作業が、つちよせくんを使うと1時間程度でできる。
〈写真:「つちよせくん」で作業する荒井さん。「労力がかからず扱いやすいので、女性にもお薦め」〉
【京都支局】「良質で子供がおいしく食べてくれる野菜作りがモットー。品種選びにこだわっています」と話す舞鶴市の田中まりさん(37)は、2015年に就農し、17年に独立。「しましまファーム」を立ち上げた。現在、「万願寺甘とう」を中心に、「佐波賀だいこん」や「舞鶴かぶ」など、さまざまな季節の野菜を14アール栽培する。万願寺甘とう以外はすべて直売。「一番おいしい食べ方をお伝えできれば」と、手書きのレシピを必ず添える。顧客は約70戸で、うち20戸は定期配送するという。
〈写真:「子供が喜んでくれると頑張れます」と田中さん〉
【北海道支局】新ひだか町三石川上地区の株式会社まつもと牧場では、地元名産の日高昆布を飼料に配合して育てたオリジナルの黒毛和牛ブランド「こぶ黒」を生産している。2019年に商標を取得したこぶ黒は、「昆布」と「黒毛」からネーミングした。日高昆布の切れ端を粉砕して飼料に混ぜ、生後10カ月くらいから与え、肥育の仕上げ期には道産もち米粉も飼料に添加。日高昆布は赤身のうま味を増し、もち米粉は脂の融点を下げるため、口の中でスッと溶け甘味をより感じる。味の良さで評判となり、商品の一つ「こぶ黒ハンバーグ」は17年に、「黒毛農家が作った和牛丼」は18年に北海道ハイグレード食品セレクションを受賞した。
〈写真:こぶ黒ハンバーグ〉
【新潟支局】野菜の水耕栽培に取り組む見附市上新田町の「kimataファーム」では、ニンニクを発芽させ特有のにおいを抑えた「においの残らないまるごとにんにく」を生産・販売している。同ファーム代表の野村貴巳さん(42)は「根はもちろん、茎も白く柔らかいので、丸ごと食べられます。新たなニンニクの味わいを楽しんでもらえると思います」と話す。「ニンニクのB級品を活用しよう」と試行錯誤を重ね、ガーリックオイルも開発した。加熱することで、においがさらに軽減。ほどよい塩味がプラスされ、調理に使うだけでなく、そのままでも楽しめる。
〈写真:ガーリックオイルはオリーブオイルとごま油の2種類〉
▼海外からの旅客の手荷物から、年間で10万件ほど摘発される輸入禁止品のうち、約4割が検疫探知犬の実績だという。2018年度の配置は全国で30頭ほどにすぎず、約4万件の肉製品などをよく見つけたものと感心する。
▼空港などに配置される検疫探知犬は、ハンドラーと呼ばれる担当者とコンビで働く。肉製品などのにおいを嗅ぐとその場にお座りして知らせる。19年度は、アフリカ豚熱(AFS)などの水際対策で53頭に増頭した。20年度予算では、さらに140頭まで増やす計画だ。
▼新型コロナウイルス感染症の拡大で、日本に来る旅客も激減し、AFS対策の重要性が薄れた印象もある。しかし、一度侵入を許すと感染拡大を止めるのは困難であり、引き続き最大限の警戒が必要。
▼検疫探知犬の仕事は、集中力を要し、空港では1頭で1日5~6便が限度という。訓練を経て2、3歳から働き、おおむね10歳で引退する。新型コロナが終息し、人の往来が増える前に十分な訓練を積ませたい。