今週のヘッドライン: 2020年05月 2週号
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、多くの生産者が苦境に立たされている。飲食店などの休業に伴う取引停止、インバウンド(訪日外国人)を含めた外食需要の減退による和牛枝肉価格の下落、また、外国人技能実習生が来日できず人材が確保できないなど、さまざまな現場で混乱が続く。緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、収束が見通せない中、どう対処しているのか、野菜と畜産の農家に状況を聞いた。
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・飲食店などへの納品落ち込む 個人客への直売に活路
「首都圏にいることもあり、この状況に切迫感を強く感じている」と話すのは、埼玉県さいたま市で、ミニトマトを中心に年間100種以上の野菜を栽培する、さいたま榎本農園の榎本房枝さん(49)。コロナウイルス感染症拡大の影響で、取引先への納品が大きく落ち込んだ状況が続いている。
〈写真:野菜100種以上を栽培する「さいたま榎本農園」の榎本房枝さん(さいたま市)〉
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・枝肉相場が低迷 直販需要も減少 顧客の応援を支えに
長野県東御市新張で和牛一貫経営(肥育・育成牛約260頭、繁殖牛約90頭)をする牧舎みねむら代表の峯村誠太郞さん(39)は「出荷先の市場では全国と同様に枝肉相場が低迷し、キロ単価は前年比500円以上下落している」と話す。
同舎では、年間出荷頭数の8割をA4以上が占める。主力であるA3~A5等級の相場も大きく落ち込み、舎全体の売り上げは前年比7割減となっている。
〈写真:和牛一貫経営をする「牧舎みねむら」代表の峯村誠太郎さん(長野県東御市)〉
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急経済対策を盛り込んだ2020年度補正予算は4月30日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。一般会計の歳出総額は補正予算として過去最高の25兆6914億円を計上。国民1人当たりに現金10万円を給付する「特別定額給付金」や、売り上げが半減した中小・小規模事業者などに最大200万円を支給する「持続化給付金」などを柱とした。農林水産関係予算は5448億円を計上。国産農林水産物の販売促進や農業労働力の確保、高収益作物の次期作支援などを支援する。
日本政策金融公庫は4月27日、担い手農業者の44.6%が収入保険制度に「加入している」もしくは「今後加入予定」だとする調査結果を公表した。収入保険制度に加入した理由では「近年の自然災害の甚大化」が69.7%と最も多かった。続いて「農業共済など他制度より有利」が20.5%、「今まで利用できる保険がなかった」が6.7%となった。
業種別での加入理由で「近年の自然災害の甚大化」を挙げるのは、耕種では施設花き80.0%、畑作78.3%、果樹76.0%となった。
長崎県雲仙市で「やぶきた」1.5ヘクタールなど茶9品種を5ヘクタールで栽培する、長田製茶代表の長田篤史さん(42)は、自社で製品化できる強みを生かしてブランド「雲仙茶」を展開。地域のスーパーなどで定期的な試飲販売に携わるほか、活動の拠点として日本茶カフェ「ぽっぽや茶葉」の経営など、消費者と顔を合わせる販売経路を多く確立している。茶の消費減少と価格低迷によって産地の存続危機がより強まっている中で、「産地と喫茶文化両方を失わないために、"急須で入れるお茶の価値"を、改めて定着させたい」と話す。
自動車内のキッチンで食事を調理・販売できるキッチンカー(移動販売車)が注目されている。移動できる店舗として、幅広い消費者へ食事を提供でき、最近では新型コロナウイルス感染症対策の「3密」回避で高まる中食需要にも対応できる。キッチンカーの製造や運営のアドバイスを行う株式会社フードトラックカンパニーの浅葉郁男さんに、開業のポイントを教えてもらった。
農作業の安全対策として、法面(のりめん)や圃場進入路などでの圃場整備などによる安全対策が各地で取り組まれている。農作業中の死亡事故では農機の転倒・転落が4割以上を占め、草刈りでは急斜面での滑落などが重傷の事故事例として挙がっている現状だ。農機の安全対策に加え、作業環境の整備が求められている。農林水産省がまとめた『農業生産基盤整備等を通じた農作業安全対策事例集』から参考となる事例を紹介する。
【埼玉支局】農家の高齢化・後継者不足が全国的に問題となる中、神川町では血縁関係のない第三者に経営を継承する事業が進められている。同町は、明治時代からナシ栽培が行われている伝統的な産地。さまざまな課題を抱える新規就農者と、後継者不足に悩む高齢農家の双方を救う一つの手段として注目される。
〈写真:ナシの木の下で笑顔の須賀さん(左)と長島さん〉
【宮崎支局】横綱になる夢に代わり、和牛繁殖の大規模経営に進むことを決めたえびの市の末川秀太さん(29)。「高齢化で農業人口が減る中、若い力として畜産を支えたい」と話す。末川さんは18歳で相撲部屋へ入門。しかし、度重なるけがや病気に悩まされ27歳で引退した。帰郷後、自分の体格を生かし、地域に貢献しながら仕事がしたいという思いから、小林市の和牛繁殖の牧場に就職。「お産の補助など力仕事が多いので、今まで培ってきた力が役に立っています」とほほ笑む。
〈写真:32歳での独立を目指し奮闘する末川さん〉
【岩手支局】米の有機栽培に取り組む雫石町御明神の滝沢藤七〈たきさわ・とうしち〉さん(64)と息子の利納武〈としのぶ〉さん(33)。2019年には、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の農産物調達基準を満たす認証を受けた。合計20ヘクタールの圃場で主に「ひとめぼれ」を栽培。そのうち、山間にある5ヘクタールの圃場では、農薬や化学肥料などを使わず、家畜用の薬剤などの混入を防ぐため、堆肥も使用していない。11年には米の有機JAS認証を受けた。「山間にある圃場のため、よそからの農薬飛散などがなく、有機栽培ができる環境が整っている」と藤七さん。「一般的な栽培方法と比べて収量は低いが、味と品質には自信がある」と笑顔を見せる。
〈写真:「安全・安心な米作りを通して、岩手から東京五輪を支えたい」と藤七さん(左)と利納武さん〉
【愛媛支局】今治市中寺の冨田健一さん(55)が栽培する「しまなみ春トマト」は、化学合成農薬と化学肥料の使用を、県が定めた基準から5割以上削減。「エコえひめ農産物」の「特別栽培農産物」として県に認証され、地元市場を中心に7月上旬まで出荷していく。一方、冨田さんが部会長を務めるJAおちいまばりのトマト部会では、しまなみ春トマトのブランド力向上に力を注いでいる。
〈写真:「収入保険への加入も検討しています」と冨田さん〉
▼大型連休は、田植えの最盛期でもある。機械化は進んでいるが、例年なら、帰省して作業を手伝う若者などの姿を見かける時期だ。孫を連れて帰る人も多いはず。しかし、今年は新型コロナウイルスの感染防止対策で帰省も自粛が求められている。自粛を要請する文書を配る県や市町村もあるという。
▼政府の専門家会議は、短期間で感染を減らすため、帰省や飲み会はオンラインでと呼びかける。仕方がないと頭では理解するが、パソコンやスマートフォン越しでの家族や友人との会話は、味気ないと感じる。顔が見えるだけ電話より技術は進歩したのだろうが、触れることができないのはやはり寂しい。
▼以前の農村では、田植えや稲刈りなど農繁期には、親戚なども集まって大人数で作業した。手伝い半分、遊び半分で子どもたちも参加し、休憩や昼食時には、近況を語り合うなどにぎやかに過ごした。
▼感染抑制が実現し、緊急事態宣言が解消されても、当面は宴会などはもっての外、顔を近寄せての会話も敬遠されるだろう。国民生活に大きな影響を及ぼすのは確かだ。