今週のヘッドライン: 2020年09月 3週号
イノシシによる農作物への被害が増加している宮城県北部の大崎市では、農業者や鳥獣被害対策実施隊への被害対策研修会や侵入防止柵の設置など、市を挙げた対策に取り組む。今年は新型コロナの影響で、春の研修会を延期。このほど開催した本年度第1回の研修会には合計40人が参加した。同市産業経済部の安部祐輝農林振興課長は、「研修会を経て、農業者の被害予防への意識が高まり始めた。実施隊の捕獲技術も向上している」と話す。
6日から7日にかけて大型で非常に強い勢力で九州地方に接近した台風10号の強風や大雨の影響により、西日本を中心に農業分野にも大きな被害が発生した。九州の一部地域は台風9号に続く被害となっている。
被災地域のNOSAIは、被害状況の確認を急ぐとともに、共済金の早期支払いに向けて迅速、適正な損害評価に組織をあげて取り組んでいる。収入保険加入者には、早期のつなぎ融資の貸し付けに向け、被害申告を呼びかけている。
JAグループは10日、国の米穀周年供給・需要拡大支援事業を利用し、2020年産の主食用米20万トンを21年11月以降に販売する長期計画的販売に全国で取り組むことを明らかにした。主食用米の需給と価格の安定に向け、10月末までに地域ごとの計画策定を推進する。新型コロナウイルス感染拡大に伴う業務需要の落ち込みも影響し、主食用米の需給緩和懸念が強まり、JAによる20年産米の概算金は、前年産比数百円から千円程度の引き下げとなっている。価格下落を招いて稲作農家の経営に影響が及ばないよう、生産者と団体、行政など関係者が連携を強化して需給安定に努める必要がある。
収入保険の実施主体であるNOSAI全国連(全国農業共済組合連合会)は8日、株式会社日本政策金融公庫と「業務連携・協力に関する覚書」を締結した。農業経営の改善支援や収入保険の普及、加入推進に向けた活動などの連携を円滑に実施し、協力して農業者の経営安定に資することが目的だ。
〈写真:覚書を交換する成川常務理事(左)と日本公庫の田口克幸常務取締役〉
パソコンや携帯端末は生活を便利にする一方で、その利便性を悪用する詐欺などの犯罪が後を絶たない。総務省によると、世帯の情報通信機器の保有状況は、2018年時点で「モバイル端末全体」が95.7%、そのうち「スマートフォン」は79.2%と大半を占める。「日頃から気をつけているから大丈夫」は厳禁。犯罪者は、あの手この手を使って私たちに攻撃を仕掛けてくる。IT・デジタル関連に精通している、デジタルリテラシー向上機構代表理事の柳谷智宣さんに、インターネット犯罪の手口や被害防止の心得を教えてもらう。
収穫物などを自動搬送する「台車型ロボット」の実用化に向けた実証が各社で進んでいる。センサーなどで作業者の動きを認識して自動で追従し、収穫コンテナや薬剤のホースなどを運ぶ。作業支援によって、作業者は収穫や剪定〈せんてい〉、散布などに集中できる。将来的には、データの測定機能などと組み合わせることで、収量や品質など生産性向上にも期待がかかっている。農家の心強い相棒となるか。実証先農家や製品開発の現状を紹介する。
【山形支局】一般社団法人アーモンド研究会(天童市鎌田)では、国内では珍しいアーモンド生産に取り組んでいる。現在の会員数は約50人で、県内外の農業者が所属している。今、最も力を入れているのは「アーモンドの女王」と呼ばれる「マルコナ種」の生産量を増やすこと。理事の佐藤隆さん(52)は、鹿児島からマルコナ種の穂木を取り寄せ、接ぎ木で約千本まで増やした。スペイン原産のマルコナ種は高級菓子などに使われ、かめばかむほど上品な香ばしさが口の中に広がる。輸入物でも1キロ6千円ほどの値が付くことがあり、希少な国産であればもっと高値が付くのではと、理事長の瀧口新一さん(68)と佐藤さんは期待を寄せる。
〈写真:スペイン原産のマルコナ種〉
〈写真:主に加工用に使用する「ダベイ」種〉
〈写真:収穫間近のマルコナ種〉
〈写真:ダベイ種の樹〉
【広島支局】ジンジャーシロップを製造・販売するGinger Diamond(福山市本庄町中)では、同市駅家町服部の「はっとり生姜〈しょうが〉」を使い、さまざまな加工品を商品化。代表の中尾圭吾さん(49)は「はっとり生姜の価値を高めていければ」と話す。駅家生姜生産部会からショウガを仕入れている。現在、年間使用する4割ほどが、はっとり生姜だ。シロップには、種となる部分が漢方で薬効があるといわれる古ショウガと、収穫後にいったん寝かせた囲いショウガを使う。生産部会の部会長を務める梅田祐伸さん(67)は「生産者が減り、量を増やすのは難しいが、これからも商品開発に頑張ってほしい」と応援する。
〈写真:「ショウガは海外ではやっているというので、海外にも売り出していければ」と中尾さん〉
【福島支局】田村市船引町でミニトマトを栽培している過足幸恵〈よぎあし・ゆきえ〉代表(35)と富塚あゆみさん(30)姉妹は、2018年に農業法人「株式会社GREEN for TABLE」を設立。ハウス13棟で「プレミアムルビー」などミニトマト10種類を栽培する。昨年は市場出荷だけだったが、今年からは近隣の直売所へも出荷する。「お客さまの『こんなにおいしいミニトマト初めて食べた』との声がとてもうれしかった」と富塚さんは話す。「甘くておいしいミニトマトをいつでもお届けできるよう、努力していきたい」と2人は意欲的だ。
〈写真:「品種によって収量に差があり、試行錯誤中」と話す過足代表(左)と富塚さん〉
【大阪支局】水稲16ヘクタールとタマネギ15ヘクタール、キャベツ12ヘクタールの輪作に取り組む泉佐野市の「射手矢〈いてや〉農園株式会社(社員8人)」は、キャベツの収穫祭と田んぼアートを通じて地域農業を盛り上げるイベントを開催している。田んぼアートは水田約20アールに、その年に送りたいメッセージや応援メッセージを描く。当初24人だった参加者が、近年では約200人になった。今年の田んぼアートは新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされた。「せっかく集まるなら、仕事につなげたい」と代表取締役社長の射手矢康之さん(51)。どちらのイベントも参加者は大阪府内や近隣府県の農家のほか、飲食店関係者やネットを通じた仲間が集まるため、取引につながることもあるという。
〈写真:2019年の田んぼアート(写真提供:射手矢農園)〉
▼政府は、10月1日を調査日とする国勢調査を14日からスタートする。1920(大正9)年の第1回調査から100年となる。第1回調査で人口は5596万人と集計されたが、戸籍人口の5792万人と比べて196万人少なかった。戸籍は届出の間違いが多いためで、直接調査の正確性と必要性が証明されたとする。
▼ラジオも電話もない時代の全国一斉調査は、国民への周知も課題で、新聞や雑誌を使った標語募集のほか、川柳や都々逸、替え歌などあらゆる方法で宣伝に努め、宣伝歌謡集まで発行されたという。調査では、山奥の集落で聞き取りをすると、「源氏はどうしていますか」と問われ、平家の子孫が暮らす集落だったとの笑い話も残る。
▼第2回は25年に簡易調査を実施。以降は太平洋戦争末期を除き5年ごとの調査を継続し、人口や世帯の基礎的調査の役割を果たしてきた。人口は100年前と比べ2.3倍に増えたが、1400万人超だった第1次産業就業者数は、いまや200万人ほどに減っている。
▼今年は、2月1日現在で農林業センサスも実施された。「統計は羅針なり」という。農林漁業振興や田園回帰を促す政策の芽を抽出してもらいたい。