今週のヘッドライン: 2020年09月 4週号
熊本県内の農家60人ほどで構成する任意団体「くまもとFTC(ファーム トゥ テーブル コミュニティー)」では、メンバーが協力してそれぞれの経営を高めている。品目の異なる生産者が互いの顧客を紹介したり、共同出荷したりするほか、メンバー間での作業受委託や農機具の貸し借りなど取り組みは多様だ。発起人の木山勇志さん(38)は「各自の経営を強くする取り組みを、楽しみながらやっていきたい。続けることが重要で、100年続く仕組みにしたい」と話す。
農林水産省は、今年から食料や農林水産物の持続的な生産・消費を促進する活動「あふの環〈わ〉2030プロジェクト」を展開する。17~27日には初の全国的な関連イベント「サステナウィーク」を実施。地球温暖化防止など環境に配慮した取り組みを参加企業・団体が発信するほか、共通ロゴマークを提示した商品販売などで持続可能な生産・消費をPRする。新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに国産農産物を積極的に選択し、国内農業を支える機運は高まっている。消費者や事業者の行動につなげ、農業・農村の振興に結び付けたい。
茂木敏充外相は11日、英国のトラス国際貿易相とテレビ会議形式で会談し、日英経済連携協定(EPA)の大筋合意を確認した。農産物の関税削減・撤廃は、欧州連合(EU)とのEPAを踏襲する形で決着した。日英両政府は協定の署名後、双方の議会承認を経て、来年1月の発効を目指す。
NOSAI福島(福島県農業共済組合)では、自身も被災しながら組合員に寄り添い、地域農業の継続に力を尽くすNOSAI部長が活躍している。昨年10月の台風19号では、九州から東北にかけて広い範囲で河川氾濫や土砂災害などが相次ぎ、福島県でも大規模な水害が発生した。混乱する状況の中でも組合員とNOSAIをつなぎ、被害の確認など迅速な対応に貢献したNOSAI部長2人に話を聞いた。
愛知県豊橋市は、新型コロナウイルス感染拡大で苦境が続く花き農家が消費者に花を直販できるポータルサイト「花いちば.com」を開設。出店農家8戸がインターネットで資金を募るクラウドファンディングで花き産地支援を呼び掛けたところ、8月下旬までに278人から330万円を超える支援金が集まり、新たな販売形態の一つと期待される。
栃木県が開発したナシの早期成園化技術「盛土式根圏制御栽培法」が、他の樹種にも応用されている。小山市の大規模観光農園「株式会社いちごの里ファーム」では、モモ50アールを盛土式根圏制御で栽培。モモでは定植2年目で結実、3年目で10アール当たり収量約2トンを実現できる。品質も良く、収穫体験や量り売りの人気が高い。樹高は約2メートルと低く、専用のY字棚を使った樹形は収穫や管理など作業がしやすく、熟練者以外も導入でき、経営多角化にも注目されている。栃木県では、ナシを含め7品目の栽培マニュアルを公開している。
【新潟支局】長岡技術科学大学では、民間企業と協力しながら、新潟市西区の西川浄化センターで下水熱を利用したワサビ栽培の実証実験を行っている。「下水熱が融雪や空調に利用されている事例はありますが、植物栽培はおそらく初めてです」と話すのは、長岡技術科学大学の姫野修司准教授。順調に生育したワサビが間もなく収穫を迎える。
〈写真:下水熱を利用したワサビの栽培方法を説明する姫野准教授〉
【福井支局】獣害の軽減を目指すあわら市熊坂区では、イノシシの侵入を防止するグレーチング付きU字溝「わたれません」(株式会社赤城商会)を昨年8月に設置。被害面積・金額とも減少し、2年目の今年も効果が期待されている。わたれませんは道路上の対策として設置した。獣の脚が落ちるサイズ(直径8センチ)のハニカム構造のグレーチングを、道路幅7メートル・長さ2.4メートルに敷設。獣はグレーチングの上を通ることを嫌がるため、侵入防止策となっている。
〈写真:センサーカメラを示す宮谷さん。「グレーチングの前後に白線を引くことで、獣は距離が長く見える錯覚を起こしている」と話す〉
【静岡支局】三島市で水稲1ヘクタールを栽培する田村嘉久さん(77)は、ICT(情報通信技術)を活用した水管理システム「paditch(パディッチ)」を試験的に導入した。インターネット経由で下限と上限の水位を設定することで、自動的に水位を保ち、遠隔操作で水田の自動給水や水温確認ができる。田村さんは「家にいながらスマートフォンで水温や水位、システムの電池の残量確認までできる。水管理がとても楽になった。システム導入に当たっては、メーカーの担当者の助けもあり、何の苦労もなかった。農作業の負担が減ることで後継者が増えてくれれば」と話す。
〈写真:圃場に設置されたセンサーと田村さん〉
【山形支局】山形市高瀬地区で農業を営む鑓水豊さん(65)は、ベニバナ100%で作る「紅花茶」を、同地区で自家焙煎のコーヒー豆販売店を営む鑓水房男さん(69)と共に開発し、本格的に販売を始めた。材料には、農薬を必要最低限に抑えて育てたベニバナを使う。花と若葉を食品乾燥機で5時間から10時間かけて乾燥させ、深煎りと浅煎りで焙煎した2種類の種子とブレンドしてティーバッグに詰める。ティーバッグのほか、飲む直前に散らす乾燥ベニバナ「乱花」も魅力の一つだ。
〈写真:「紅花茶で高瀬地区を盛り上げたい」と話す豊さん(左)と房男さん〉
【奈良支局】 在来大豆「大鉄砲」を3.9ヘクタールで栽培する田原本町の鎌田淳さん(63歳、株式会社鎌田ファーム)は、昨年度4.2トンを収穫。「作付けを増やしたい」と意欲的だ。
栽培は、大和郡山市の食品加工会社の呼び掛けに応えたもの。同社は大鉄砲の食味の良さに注目し、商品開発に取り組んでいる。鎌田さんは種子を探すことから始めたが、県内ではなかなか見つからなかったという。他県の種苗会社が10キロ所有していることを探し当て、すべて購入し、2017年に20アールで栽培を始めた。
〈写真:「大鉄砲を広めていきたい」と鎌田さん〉
▼地理的表示(GI)保護制度などを利用した地域ブランド振興は、認知度向上などに課題があるものの、生産者の経営継続につながることが示された ―― との研究結果を農林水産省農林水産政策研究所が公表した。特にGIを題材に、産地と流通業者、消費者のアンケートや個別事例の調査などから現状と課題などを分析・検討した。
▼公表した資料では、現状は、消費者などによるGI制度の認知度は高いとは言えないと評価。しかし、偽装表示や品質管理に対する関心は高く、国や第三者機関の認証制度を求める傾向もあり、認知を広げることで販売の拡大や価格上昇などが期待できると総括する。
▼GI制度は、地域の気候・風土と結びついた特性や伝統的な生産方法による農林水産物・食品を地域固有の知的財産として保護するもの。制度は2015年6月にスタートし、国内産品の登録は40都道府県の97となっている。ただ、先行する欧州連合(EU)では、昨年3月時点で1400件弱が登録され、取引や担い手の増加など効果が確認されているという。
▼研究では、認知度向上には、登録と合わせたPR活動が重要とし、産地や行政の対応を課題に挙げる。GI登録が目標となり、PR活動がおろそかになっていないか。登録はゴールでなくスタートと認識すべきだろう。