今週のヘッドライン: 2020年12月 2週号
富山県氷見市の論田集落協定では、遠隔操作の草刈機やトラクター作業機のオフセットモアーなど複数機械を組み合わせて、傾斜などの条件に合わせた除草作業の省力化を進めている。代表の中原修さん(67)は「体の疲れがなく、誰でも安全に草刈り作業ができる」と利点を話す。機械の導入費には中山間地域等直接支払の交付金を活用。共同の草刈りに利用するだけでなく、個別農家にも安価に貸し出し、高齢化が進む中での農地維持を促す。
政府の農林水産物・食品の輸出拡大のための関係閣僚会議は11月30日、農林水産物・食品の輸出額を2025年に2兆円、30年に5兆円とする目標達成に向けた「輸出拡大実行戦略」を決定した。牛肉や米、リンゴなど27品目を「輸出重点品目」とし、具体的なターゲット国・地域と輸出目標を設定。20年度中に品目ごとの「輸出産地」を選定し、輸出に特化した産地形成を重点的に支援する。少子・高齢化による国内市場の縮小が見込まれる中、輸出による農業生産の振興も産地の選択肢となる。ただ、輸出には国内市場にはないリスクも多く、産地の農家が展望を持って取り組める環境整備が不可欠だ。
農林水産省は11月27日、2020年農林業センサスの結果(概数値、2月1日現在)を公表した。農業経営体数は107万6千で、5年前の前回調査比で30万2千経営体(21.9%)減少した。一方で1農業経営体当たりの経営耕地面積は3.1ヘクタールとなり、初めて3ヘクタールを超えた。
個人経営体数は103万7千で同30万3千減少。主に自営農業に従事する基幹的農業従事者数は、136万1千人で同39万6千人(22.5%)減少した。個人経営体の減少率は、比較可能な05年以降で最大となった。
「サラダセットは見栄えがするうえ、簡単にいろいろな品目を食べられて、売り上げが増えている」と話すのは、滋賀県東近江市永源寺でリーフレタスなど約6アールを栽培する「町田さらだぼうる」代表・町田香織さん(46)。野菜ソムリエの資格を持つ娘の七星〈ななせ〉さん(22)と、リーフレタスを中心にミズナなどを詰め合わせたサラダセットの販売を考案し、約1年で売り上げの半分を占めるまでになった。
乾燥する季節。農作業は土や水に触れる機会が多く、手荒れは女性農業者の大敵だ。コロナ禍で頻繁な手洗い・消毒によるダメージもあり、いつも以上に優しくいたわりたい。冬場の手荒れの原因や効果的な対策について、インターネットの生活総合情報サイト「All About」で「スキンケアガイド」として活動する佐治真澄さんに聞く。
農研機構九州沖縄農業研究センターは、イチゴの施設栽培で増収・省エネを両立する「局所適時CO2施用技術」を開発し、普及へ向けて実証を進めている。微細な穴の開いたチューブをイチゴの株元に設置し、光が十分あるときだけ高濃度の二酸化炭素(CO2)を供給。ハウス全体に施用する方式と比較して、効率的に光合成を促進させる。既存の燃焼式二酸化炭素発生機を活用し、配管なども自作できるため、コストを抑えて増収が図れると期待されている。
【北海道支局】「農業で世の中を盛り上げたいです」と話すのは、園芸施設63棟でトマトを栽培するほか、アスパラガス、タマネギなどを約150ヘクタール作付ける美瑛町美沢早崎の本山忠寛さん(35)。コロナ禍の影響で休業に追い込まれた人々の手助けや人材育成を目的としたインターンシップの受け入れなど、社会貢献活動の傍ら、自社農場の人手不足の解消に取り組んでいる。
〈写真:ペンションを経営し、現在も本山さんの農場で働く黒村操さん(左)は「少なくとも2年ほど休業する予定だったので、働き先ができて本当に助かります。農家は異業種の方という感覚でしたが、今では身近な存在になりました。初めての農作業も、やってみたらとても楽しい」」と話す〉
【山口支局】「試行錯誤を重ね、最善を尽くした結果です」と話す長門市の農事組合法人日置川原の代表理事・上手隆司さん(39)。同法人は「令和2年度全国麦作共励会都道府県審査集団ブロックの部」で優秀賞を受賞した。山陰地方での麦栽培は高品質・多収が難しいとされる中、父の進さん(69)と共に2014年に麦の作付けを開始。今回の受賞は、同市が麦の生産地であることを確立し、可能性を広げるきっかけとなった。
〈写真:表彰状を手に隆司さん(左)と進さん〉
【山梨支局】富士河口湖町にある自動車部品メーカー有限会社T・M・WORKS(轟英明代表取締役)では、農作物の獣害対策用品「鹿ソニック」を開発・販売している。鹿ソニックは、人間には聞こえない高周波を照射し野生動物を近づけない仕組み。元々はシカなどの野生動物と自動車との衝突事故を減らすため、独自の高周波技術で開発した製品だ。現在は自動車だけではなく、線路や農地、ゴルフ場、キャンプ場など顧客のニーズに合わせた製品になっており、富士急行線にも設置、JR中央線でも導入が予定されている。轟代表は「北海道のスイカ農家では、鹿ソニックを取り付けてから被害が無くなったと報告がありました」と話す。
〈写真:甲州市のスモモ畑に設置された鹿ソニック。電源付き鳥獣害対策用ソーラーパネル仕様。12キロヘルツから30キロヘルツの高周波を照射する。照射距離は70~80メートル〉
【長崎支局】佐世保市宇久町の岩永裕志さん(31)は、子牛の部屋の一角にコンパネの端材や角材などを使って、子牛用のベッドを作製した。叔父が経営する鳥山畜産に勤める岩永さんは、「子牛たちはやっぱりが気持ちいいんでしょうね。畳2枚ほどの広さで、高さが15センチあります。簡素な作りですが、もたらす効果は大きい」と話す。離島にある宇久町では、敷料になる木材チップなどを確保するのが難しく、経費がかかるため、ふんだんに使用することができない。そのため、ベッドの範囲を限定することで敷料を節約できるという。「敷料の量が少なくなることで、作業の省力化にもつながっています」と岩永さん。少量の敷料でも厚みを確保することが可能で、冬場の底冷えによる体温低下、下痢・肺炎などの予防を期待できるという。
〈写真:ふかふかのベッドで過ごす子牛〉
▼政府・与党による2021年度の畜産・酪農対策の協議が大詰めとなっている。その中で、肉用牛の団体からは、稲わらの安定的な輸入の確保の要請があった。国内では、主に肉用牛の飼料用として年間92万トン(18年)の稲わらが利用されており、うち約20万トンは中国からの輸入に依存する。
▼政府は中国に植物防疫官を2人派遣し、稲わらの検疫手続きを実施している。今年は新型コロナの感染拡大の影響か、定期的な交代ができず、輸入が滞るとの懸念が広がった。一方で国内の稲わら産地では、長雨による品質低下などが発生し、需給はひっ迫ぎみという。
▼飼料に利用される稲わらは、国内生産量の1割弱だ。自給もできそうだが、それほど簡単ではない。通常のコンバイン収穫では十分な細断長が確保できず、調整が必要。カビや泥の付着は論外で、色味や乾燥状態など肉用牛農家が求める条件がある。また、わら収集用の機械や保管庫など投資もいる。
▼牛肉は、政府が決定した輸出拡大実行戦略の重点品目の一つで、300億円弱の実績(19年度)を25年に1600億円とする目標を掲げる。産地化支援では繁殖雌牛の増頭などを打ち出した。飼養頭数が増えれば当然、良質な稲わらも相当量必要になる。輸入依存からの脱却を目指し、未利用資源の稲わら活用を促す仕組み構築を急ぐべきだ。