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防風林「水田の生きもの調査で知った人間社会の在り方【2015年9月2週号】」

 ▼久しぶりにズボンやTシャツが泥まみれになった。参加した水田の生き物調査、カメラとメモ帳を畦際に置き、網を手にザクザクと株元の水底をすくう。ほかの参加者は希少な水生昆虫を次々と捕獲していたが、着衣の汚れほど成果は上がらなかった。
 ▼栃木県有機農業推進公開圃場の見学会が8月末、塩谷町の特栽米農家・杉山修一さん方の水田で開かれた。参加者は消費者など約20人、中には著しく生態に詳しい方もいて希少種の昆虫も捕獲できた。タガメやタイコウチ、ゲンゴロウ、コオイムシ、ヤゴなどを小型の同じ水槽に入れていたはずだが、いつの間にか姿を消した昆虫が何種類かあるのに気がついた。これは、自然界の食物連鎖が原因だ。
 ▼「弱肉強食の最上位に位置する生き物が何かがわかれば、生物多様性の度合いが明確になります」とは、指導した水田環境鑑定士の説明だ。生物には必ず餌となる捕食関係があり共存する。水質が保たれ生物の種類が豊富な水田ほど、昆虫類の生存競争も厳しく命がけになるのだ。
 ▼一方、人間社会にも厳しさはある。夏目漱石が著書『草枕』で「智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される」と、この世はとかく住みにくいと嘆いた通り、現代人にとっても煩わしい人間関係が一番のストレス要因。
 ▼最近、いじめや暴力が原因で自ら命を絶ったり、命を奪うなどの痛ましい事件が相次いでいる。人間社会はルールや相互理解で形成されていて、自然界のタガメとヤゴのような捕食関係ではありえない。身近な水田には、人間と水生昆虫の相まみえぬ異質な社会環境があるのだ。