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防風林「日本語に込められた日本刀にまつわる思い【2015年12月1週号】」

 ▼ふと立ち寄った小さな町の歴史館、所蔵の刀剣展が開かれていた。「武器である日本刀由来のことわざって多いんですよ」。館員との会話が弾んだ。
 ▼例えば、約束時間に間に合いそうもなくて「切羽詰まった」進退窮まる状態を「土壇場」という。切羽は刀の鍔(つば)に添えられた金具で、これが詰まると刀を「抜き差し」できなくなる。獄舎から引き出された罪人で、刀を試し切りする際に土盛りしたのが土壇場。普段使わない最後の切り札を出すのを「伝家の宝刀を抜く」という。
 ▼気心が通じ合わない人を示す「反りが合わない」は、日本刀背面の曲がり(反り)と鞘が合わない場合をさし、その人が能力的に秀でて勝ち目がないのを「太刀打ちできない」。短時間で技量を磨くのが「付け焼き刃」、なまくら刀に鋼の焼き刃を足したものだ。
 ▼そんな相手と勝負して善戦するのは「鎬(しのぎ)を削る」。鎬は刃と棟の中間の稜線部で互いに刀を合わせ火花を散らす。敗れて「単刀直入」に謝罪しても「一刀両断」される、など。人を殺めるための武器を日常語に入れて話したら、現代では危険人物視されるのが関の山だ。
 ▼武家社会が長く続き、特に江戸は武士が多かった。武家への畏敬があったのだろう。日本刀の切れ味や刃紋の美しさ以外に、礼節や忠義を重んじる武士道精神を、長らく戦(いくさ)の途絶えた平和な江戸期の庶民が言葉に残した。今度、農業由来の熟語やことわざを探そう、「晴耕雨読」「我田引水」とかなり多い。