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防風林「伝統ある都市農業の維持は地元の課題【2016年2月2週号】」

 ▼立春後の風の強い日、地元の空は薄茶色に染まり、住宅の窓枠に土が付着し主婦たちは洗濯物の汚れに眉をひそめる。近隣市町村の畑地の表土が風で巻き上げられ空を舞うのだ。
 ▼元禄期、徳川綱吉の側近・柳沢吉保は、武蔵国(現在の埼玉県)川越藩主に登用され、秣(まぐさ)場として農民間の係争が絶えない領内の雑木林を開墾し、着任後約3年という早さで190戸の入植者を受け入れた。一区画(5ヘクタール)が短冊状の地割りで、雑木林と屋敷(林)の間に畑を交互に配置した。雑木林は防風林として砂の流亡を防ぎ、落葉は燃料や堆肥、さらにサツマイモの苗床や伏せ込みに活用する農法も確立し循環型農業を配慮した。
 ▼埼玉県西部の三富地域には、今も短冊区画や雑木林の風景が残る。都心に近く宅地化の波を潜(くぐ)り抜けて野菜栽培が続いている。地元自治体は世界農業遺産への登録を目指していたがくしくも国内選定でかなわなかった。
 ▼伝統的な循環農法は継続されているが、高齢化や担い手不足などの影響は深刻だ。地元農家の熱意はもちろん、近隣市町村との協調・支援の輪が広まらなければ、江戸期から続く伝統の灯は強風とともに消えかねない。
 ▼この三富地域を含め、周辺では狭山茶銘柄の茶畑も多く、営農継続が土壌流亡の防止に一役買う。営農が途切れれば深刻化するはずだ。都市農業は「あるべきもの」への転換が検討されているが、暮らす住民が地元農業とどう付き合うか? もはや農業問題ではなく、地域計画の描き方なのだ。