▼仕事帰りに立ち寄る深夜営業の量販店内に、焼き芋のショーケースが設置されていて気になった。「そういえば、夏前からあった気がする」と。
▼秋までずいぶんと拙速な準備だなあと思っていたら、「今ちょっとしたブームです。深夜は火を使うので機械を停止していますが」と店員。店頭のケースは保温だけではなく、装置下部で遠赤外線によって適度に焼き上げる。店員の監視や手間も掛からずコンスタントに売れるので重宝らしい。
▼「焼芋の固きをつつく火箸かな」(室生犀星)。落ち葉焚(た)きにサツマイモをそっと忍ばす風物詩もあり、俳句でも冬の季語だ。軽トラックで流す振り売りから購入したものだが、気恥ずかしさから、呼び止められなかったという女性も多くいたよう。幼少のころ、おやつ代わりに母親が蒸(ふか)してくれたサツマイモは甘さが少ないうえ水分が多く「ぐちゃっ」とした食感が正直いって好きではなかった。
▼時がたって「ベニアズマ」を試食した時、栗のような食感がこれまでの印象を一新した。小売店の商品棚ではいまや、ベニアズマが主役。さらに安納芋に続いて「べにはるか」が女性に大人気という。栗食感ではなく水分は多いが強い甘みの割にスッキリ感。冷やすと「スイーツみたい」と評判。
▼江戸期に栽培を普及した青木昆陽も、甘藷(かんしょ)の味・色の変貌や人気に、草場の陰でにんまりしているかも。13日は「さつまいもの日」。毎晩お世話になる芋焼酎の肴(さかな)には、べにはるかの冷めたい焼き芋が深まる秋の夜長に合いそうだ――だが遠慮しておこう。