ヘッドライン一覧 購読申込&お問い合わせ 農業共済新聞とは? 情報提供&ご意見・ご感想 コラム防風林

防風林「職人が存在しなければ【2019年11月3週号】」

 ▼子どもの頃、一度だけ、かやぶき屋根のふき替えを経験した。職人のほか、近所の人も手伝いに出て、にぎやかに作業する。黒ずみ傷んでいた屋根が、ふき替えが終わると散髪したてのようにきりっと締まり、白く光って見えた。
 ▼大嘗祭(だいじょうさい)のため皇居の東御苑(ひがしぎょえん)に造営された大嘗宮(だいじょうきゅう)は、かやぶき屋根にするのが正しいそうだが、今回は板ぶきとなった。経費削減に加え、職人不足がその理由という。地方でも職人不足が顕著で、費用がかさむことから、かやぶき屋根の古民家は次々に姿を消している。
 ▼火事で正殿などを消失した首里城(那覇市)の再建には、政府も全面的に支援する方針だ。しかし、特徴的な屋根の赤瓦は、民家に使われる瓦と土の配合や焼き方が違い、製法を知る職人がいないという。瓦の製法再現とともに、技術を身につけた職人育成が課題だ。
 ▼パリのノートルダム寺院大聖堂も今年4月、火災に見舞われた。再建をめぐり、被災前と同じ構造での復元か、新規建築にするか議論になっているという。正確な復元を目指す場合には、屋根をふく職人確保が課題と報道されている。12~13世紀の建造で、屋根を支える構造は当時の技術の結晶だ。熟練の職人でないと復元は難しい。
 ▼日本の田園風景は、棚田とかやぶき屋根のイメージが強い。職人の育成・確保を急がないと、その風景の多くを失う事態も懸念される。