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防風林「風評被害の現実を直視しているのか【2021年5月1週号】」

 ▼科学的に「安全」と証明されるとしても、財務相が「飲める」と発言したり、説明資料にゆるキャラ風のイラストを使ったりと軽率な対応が目立てば、福島県民の気持ちを逆なでするのも当然だ。東京電力福島第一原発で増え続ける処理水について、政府は海洋放出の方針を発表したが、漁協をはじめ関係者の大反発を招いている。
 ▼菅義偉首相は会見で「風評被害で復興への希望が失われてはならない。政府一体で全力を尽くす」と強調した。だが、原発事故から10年たった現在も風評被害は解消されていない。農林水産省による米や牛肉、ヒラメなど重点6品目の調査では、震災前の水準まで出荷量は回復せず、価格差は縮小してきたものの、牛肉やモモは全国平均を下回る。原発事故を理由に輸入制限を続ける国も残っている。
 ▼こうした風評被害の実態があるのに、一方的に処理水の放出が決められたのだ。政府関係者は、不安を抱える地元漁業者などの声に真剣に向き合ってきたと胸を張れるのか。科学的な安全性を強調する前に、風評被害の解消が実感できる状況を作るべきだろう。自助や共助では対応困難な問題だからこそ、政府の姿勢と対応が問われるのだ。