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防風林「科学的根拠と風評被害【2023年9月1週号】」

 ▼福島第1原発の処理水海洋放出について、国内では比較的冷静に受けとめている印象だ。一方で、中国は日本産の水産物輸入を全面停止し、香港も福島など10都県産の水産物輸入を停止した。国際原子力機関(IAEA)が7月に示した包括報告書では、人や環境に与える影響は無視できるほどと結論づけているが、全く意に介さず強硬な態度は変わらない。
 ▼日本産水産物の輸出先で中国と香港は1位と2位であり、輸出額の4割を占める。輸入停止が続くと、東日本大震災と原発事故からの復興を後退させかねない。政府には早期の輸入再開や水産業への影響回避・補償に全力を挙げてもらいたい。中国には外交問題に絡む思惑もあるようで困難は承知だが、水産業へのしわ寄せは許されない。
 ▼処理水の放出決定前に行われた岸田文雄首相との面談で、全漁連の坂本雅信会長は「漁業者と国民の理解を得られないままでの処理水放出に反対であることは変わらない」と発言。科学的な安全性への理解は深まっているものの、科学的に安全といっても風評被害はなくなるわけではないと訴えた。
 ▼欧州連合(EU)が輸入規制を撤廃したのは、原発事故から12年を経た今年8月3日のことだ。科学的な安全性だけでは割り切れない気持ちがあるのは当然だろう。政府には、風評を気にせず漁業を営める日が来るまで伴走する責務がある。